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日影の若葉 五

 だが、初心(うぶ)な章一はまんまとひっかかり、藤村に恩を感じて、気強くことわれなかったのだろう。 「藤村に触らせたのか?」 「し、仕方なかったんだ。逃げようとすると、怒って殴られ……」 「殴られたのか?」 「な、殴りそうな真似をして……。それで、それで……」  ひっく、ひっくと泣き出す始末。  変成男子――。同級に、そう陰口たたかれる少年がいた。やはり色白でひ弱そうで、上級生に呼び出されては悪戯されているという噂をよく聞いた。そんな彼を評した言葉だが、章一もまた学院でそう言われていることを、望は知っていた。  だからこそ、章一目当てに付け文する連中がいても、気にもとめず、かかわらないようにしていた。  美しく弱いいとこは、望にとっては恥でもあったのだ。身内だと思われたくなかった。  相馬はきれいだが、きついな。冷たいと思うときもあるぞ……。そう友人に言われたことがある。たしかにそうかもしれない。自分でも自覚していた。 「で、結局、藤村の相手をしたのか。だから、稚児だというんだ」  藤村の冬でも汗くさそうな大きな身体や、面皰づらを思い出すと、なんとも嫌な気持ちになってくる。今、章一に触れていることさえ厭わしくなる。 「そ、そんな目で見ないでよ」 「そんな目? どんな目だよ?」  ひどく苛立つ。 「そ、そんな、僕のことを汚いものでも見るような目で……。ひっく」 「だって……汚いじゃないか?」  章一の顔が真っ赤になる。先ほどは羞恥で赤くなったのだろうが、今は怒りと悔しさに赤く燃えているのだ。望はよけにむっとした。 (生意気な!) 「ひ、ひどいよ、望ちゃん! の、望ちゃんだって……」 「なんだよ?」  組み伏している章一の身体から、熱とほのかな体臭を感じる。 「ぼ、僕、知っているんだから。望ちゃん、このまえ、お祖父さまのお家へ泊まりにいったとき、そ、そこで……」

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