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第1話

「どうして、こんな……」  どんな困難な場面でも動じずに事件を解決してきた高校生探偵五色秋良は、目の前にあるソレから目を離せなかった。  その視線の先には、十年余の付き合いでもあり、高校生探偵の自分の助手として力を貸してくれていた暮埼梨音のむごたらしい遺体があった。                             (『古城殺人事件より』) 「嘘だろ……」  ひょろりとした体躯、特にこれと言って特徴のない顔には、ちょっとした目印替わりとばかりに黒縁の眼鏡が乗っていた。 (すぐに『退場』しちまう役に成り代わっちまったよ)  洗面所の鏡で平凡中の平凡、とも言える顔立ちをチェックし、現在の自分の名前とついさっき蘇ったばかりの自分の記憶とを擦り合わせる。 (やっぱりどう見てもあの『暮埼梨音』なんだよな)  イケメン高校生探偵である五色秋良が主人公の五色シリーズは、累計400万部を超えるベストセラーだったが。 (それって(くれざきりおん)がいなくなってからなんだよな)  地味で口数も少ない陰キャラよりの『暮埼梨音(もちろん男子)』は、当初から読者の受けがあまりよくなかったようで、なんとたった第三話目で退場となっている。  それもただの退場ではない。  暮埼梨音は『古城殺人事件』の三人目の犠牲者となってしまうのだ。 (そんな結末はイヤだ)  確かに前の人生は平々凡々で、もし生まれ変わるのならもう少し波乱万丈な人生がいいかなあ、とか思ってはいたけど。 (少しどころじゃないじゃないか) このフラグだけは絶対に回避しなくては、と俺は心に深く誓った。

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