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第2話
「……来ちまった」
俺はとある瀟洒な作りのマンションの前にいた。
あれから一か月。
俺は考えつく限りの方法を試していた。
『古城殺人事件』は、今の俺、暮埼梨音がネットで見つけたミステリーツアー参加募集のサイトがきっかけとなる。
(いや、自分からフラグ立てんなよ)
ようするに俺がその話を持ち掛けない限り、『古城殺人事件』は起こらない。
そこまで考えたとき、ぞわり、と背筋に悪寒が立った。
この世界はそこまで甘いのか?
俺は前世で読んだいわゆる成り代わりや転生ものの話を思い浮かべてみた。
(こういう時って大体は遅くても子供の頃から記憶戻ってたりして、ライバルの主人公とかヒロインとかと仲良くなってフラグ回避とかしてたりするんだけど)
俺の場合、思い出したのは一か月前。
このまま行けば第三の犠牲者まっしぐら。
(冗談じゃない)
その前に何とかしないと。
という訳で俺は何度か家出を試みた。
(要するに、例の事件の時にここにいなければいいんだよな)
それなりにプランを立てて実行したんだが。
(俺だって元社会人だし、ノウハウくらいあるし、何とかなるだろ)
そうは問屋が卸さなかった。
電車に乗って街を離れようとすると、
「車両の不備のため、お客様には申し訳ありませんが、ただちに停車致します」
(は?)
謎の車両不良で、そのまま線路へ降り、乗客は皆ひとつ前の駅まで線路を歩くことになった。
(おいおい)
その時はまだ軽く考えていた。
(こんなこともあるんだな)
だが、それだけでは済まなかった。
俺がこの街を離れようとする度、
「このバスは走行不良になりました。代替えのバスを手配致しますので――」
結局、バスの手配が間に合わず、急遽タクシーが手配されたのだが、平日のこんな時間にこんなとこにいる俺の姿はめちゃくちゃ目立つので、諦めるしかなかった。
(……どうなってるんだよ?)
最終手段として、リュックを背負い、こっそり夜中に徒歩で街を出ようとしたのだが、これが止めとなった。
(よし、この坂を登り切れば出られるな)
そう思った瞬間、突然の豪雨。
(……は?)
あまりにも強い雨粒だったからとっさに何が起こったのか分からなかった。
(何だ? 砂利でも降って……土手でもあったか?)
そうじゃない、と気付く頃にはとんでもない降りになっていて。
雨宿りできる場所を、と俺が周囲を見渡したとき、それは起きた。
一瞬の放電。そしてすぐに腹に堪えるような音がして、
「……嘘だろ」
目の前にあったはずの片側一車線の国道は、何本もの倒木でまるで通るな、と言わんばかりに埋め尽くされていた。
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