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第3話

(あれはさすがに目を疑ったぜ)  何しろ、確かにあったと思ったものが、なくなったのだから。  その後、何度試しても同じようなことが起こり、結局俺は街を脱出することができなかった。 (これが修正力というやつか)  前世で読んだネット小説の中には、そういった力が働かないものもあったが、どうやらここは違うらしい。 (物語の都合上、俺がいないと困るってことか)  そうは言っても俺だって死にたくはない。 (そっちがその気なら)  前世で得た知識を利用して絶対に生き残ってやるっ!!  そんな思いで訪れたマンションは、かなり高そうな作りをしていてどう見ても富裕層が住んでいそうな感じだった。 (ここか)  このマンションの最上階には、将来五色秋良の好敵手となる怪盗ソードナイトが住んでいるハズ。  怪盗ソードナイトは今時律義にも予告上を出す輩で、変幻自在、どんな人物にも変装することができる、という昔からよくあるタイプの怪盗なんだが。 (怪盗になった理由が、先祖代々伝わる刀を見つけ出すため、っていうのもな)  世間では謎の怪盗として騒がせているソードナイトだが、前世の読者知識を持っている俺からしたらそんなもん、屁の河童だぜ。 (本名は如月夜留……だけど、このマンションは『森里祐一』か)  この偽名も聞いたことがあるので、少しほっとした。 (いやほんとに別人だったらどうしょうか、と思ってたけど)  そこまでは良かったが、ここはいわゆる高級マンションで。  エントランスに入るには、古典的な手だが先に入る住人に素知らぬ顔をして続くくらいしか思いつかない。 (部屋番号も分かるが、何と言って気を引くか)  怪盗ソードナイトは依頼も受ける。  だけどそれは、自分が本当に狙っているのが、先祖が騙し取られた刀剣を捜している、というのを隠すためで。 (うーん。いきなり会って『前世で読んでた物語の……』って言った時点で俺、めちゃくちゃ怪しい人物確定じゃん)  勢いでここまで来てしまったものの、決定打が見つけられなくて逡巡してしまう。 (まあ、でもこのマンションにいるのが、『あっち』じゃなくてよかったけどさ)  今の俺はこの街を出ることができないので、このマンションが比較的近い場所にあってよかったと心から思った。  高校生探偵五色秋良の好敵手となる人物は主に二人。  一人は言うまでもなく怪盗ソードナイト。 (ソードナイトが出る回は殺伐とした展開がなくてほっとする、って言う女性ファンもいたよな)  怪盗のくせに生真面目な面もあり、清潔感を感じさせるイケメン、ということもあってか、主人公である五色秋良と二分するほどの人気キャラだった。  そしてもう一人は――。 (こっちはあまり関わりたくないんだけど)  殺人鬼――百眼(びゃくめ)。  本名を香月朔夜といい、頭の回転は非常に速いのだが、その思考はかなり斜め上を行っていて、『殺人は美しくなければ』とか訳の分からんことを言って連続殺人事件を起こし、また時にはそのアイディアを依頼人に与えたりしている。  そんなアブない人物なのだが、ややたれ目がちの眼と整っている割に童顔っぽい顔立ちが女性ファンのハートをがっちり捕まえて、過去の人気投票では主人公の五色秋良を押さえて一位を獲得したこともある。 (くそ、やっぱり男は顔なのか)  

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