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第4話
前世も今もモブ顔な俺としては羨ましい限りである。
地面を蹴り上げそうになって慌てて抑える。
今は平日の午前中。
急な腹痛と言って早引けして来た身(もちろん着替えて、目立つ制服は駅のコインロッカーに預けてある)としては目立つのは避けたい。
(いっそ正直に全部話すか)
怪盗ソードナイトは話を聞いてくれるだろう。
(突拍子もない筋書きだけどな)
やや遠い目になりながらちょうどよくマンションに入る小太りのおっさんの後に続いて中へ入る。
(よし)
おっさんが背を向けたまま先に行くのを確認しながら目当ての部屋番号に指を伸ばす。
「その部屋に何の用かな?」
(……へ?)
今の今まで普通のおっさんだと思っていた相手が伸ばし掛けた俺の手首をがし、と掴み、おっさんらしくない若い男性の声音が俺の耳を打った。
強く、見定めるような眼差しを受けた俺は、
(まさか)
「見ない顔だね。君、未成年だろう? 学校は?」
声と顔が合っていない。
あの怪盗がそんなミスをすることなんて有り得ない。
(もしかして試されてる?)
「どうしたのかな?」
その眼はどこか面白がっているようにも、また、咎めているようにも見えた。
(そう言えば怪盗ソードナイトって、『嘘』に敏感なんだよな)
もともと先祖伝来の刀剣を盗られたのってほとんど詐欺みたいなものだったし。
(くっ、ここは正直に話すか)
ここまで0.5秒。
俺は腹を括った。
(まだ死にたくない。俺は長生きして大往生してやるんだっ!!)
深く息を吸ったつもりだったが、やはり緊張していたらしく、俺の喉から出たのは掠れた声だった。
「あの、ここの部屋の主の、怪……如月夜留さんですよね?」
さすがに『怪盗』と口に出すのは憚られた。
すると目の前にいた相手は軽く目を見開いたあと、
「……ああ、そうだけど君は?」
「俺、ずっと前からあなたのこと知ってますっ!!」
後から考えるとめちゃくちゃヤバい発言だったと思う。
だが、この後それ以上のことが起きるだなんてその時の俺には予想もついていなかった。
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