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第5話
「それでいつから何を知っているって?」
(うわあ、すごっ)
室内は予想通り、というか広々としていて、持ち主の趣味を示すようにシンプルな家具が多かったが、重厚な光沢感からそれらが全てかなり値の張るものだということが俺にも分かった。
(俺、すごい場違いなんじゃ)
そんなことを考えていたせいで反応が遅れた。
「すみません。……あなたが怪盗ソードナイトで、本当は先祖伝来の名刀菊流水を捜しているという――」
そこまでしか言えなかった。
「なんだって」
いつの間にか目の前のソファーで対峙していたはずの相手が俺の両肩をしっかりと掴んでいたのだから。
「君は……どうやら本気でそう言ってるみたいんだね」
相手の眼にどこか怪しげな煌めきが宿ったように見えた。
「本気です」
どういう意図か見当がつかないが、ここで引く訳にはいかない。
目の前の瞳が更に怪しく、どこか不穏めいたものに変わったようだった。
(何だ?)
「怪盗の件はともかく、菊流水のことまで知っているとはね」
いただけないな。
囁かれて、背筋にぞわり、と悪寒めいたものが駆け抜ける。
そこまできて俺は何かがおかしいと気付いた。
(怪盗ソードナイトって、こんな奴だったか?)
「ちょっとばかり用があってここへ赴けば、なかなか興味深いことになっているようだね」
(んん?)
言葉のチョイスがおかしい。
怪盗ソードナイトならそういう場合『興味深い』ではなく、素直に『面白いことになった』とか言いそうだし。
『怪盗ソードナイト』は、そんな俺の様子を面白がるように見ながら、変装を解いた。
メイクを落とし、軽く顔を撫で、かつらをむしり取る。
体に付けていた重りのようなものを落とすと、そこにはさっきまでいた冴えないおっさんの面影は全くなくて。
「鈍いかと思っていたけれど、案外気付くの早いね、君」
たれ目がちの眼に、二十六歳とは思えない童顔の整った顔。
そこには俺が一番会いたくない人物がいた。
(マジかよ)
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