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epilogue-1
冬枯れた宵の薔薇園は、華やかだった景色が嘘のように寒々としている。
しかし年明けを待って剪定されるはずの枝たちは、やがて来る春のために糖分を蓄えようと密かに準備を始めていた。
その証拠に、色彩の極端に減ったなか枝元だけが赤く色付き、新しい命の兆候を記しているのだった。
「りお、今日はおつかれさま!」
にか、っといつもの笑顔を浮かべた環は、しろい息を弾ませながら花壇に腰掛ける。
その隣に寄り添うように並ぶと、莉音はこころもち首をかたむけ、愛らしいくちもとをほころばせた。
「お前こそ、良かったのか? せっかくのクリスマスに一日中ボランティアなんて」
わかりきったその答えを待つまでもなく、莉音は言葉の代わりにそっとしろい指を環のそれに絡める。
指先のつめたさが、逆にほっこりと胸を温めてくれるような気がした。
照れ屋な恋人なりの感謝の意を汲んで、環は寒さのせいでほんのりとうす桃いろになった頬に顔を寄せる。
ぴんと張り詰めた清廉な冬の夜気に、あまやかな薫りがふんわりと彩りを添えた。
きゅっとちからが込められたのを合図に、環は用意していたものをコートのポケットから取りだす。
繋いでいた手を取ると、勢いのまま骨ばった薬指にちいさな輪をすべらせた。
「メリークリスマス」
驚いてまんまるになった瞳が、まじまじと自分の手に嵌められた指輪を凝視する。
その姿が予想よりもずっと可愛らしくて、環は頬が緩むのを止められそうにない。
「ほんとはペアにしたかったんだけど」
予算の関係で、とおどけてわらってみせたのだが、なぜか莉音は固まったままだ。
「りお……?」
「あ」
顔をのぞき込むと、慌てた様子で環と同じようにダッフルコートのポケットを探り始める。
差し出された、ちいさな箱。
りぼんのかけられたそれには、見慣れたロゴが描かれていた。
それもそのはず、つい先ほど環は、まったく同じデザインの箱から莉音へのプレゼントを取り出したのだ。
案の定開けてみれば、なかにはよく似た装飾の指輪が鎮座している。
「コレ、りおが選んだわけじゃないよね」
「ん……クリスマスプレゼントなんて、あげたことももらったこともなくて。どうしたらいいか、わからなかったから」
申しわけなさそうにぽつぽつと話す姿は、ほんとうに健気で愛らしくてたまらないのだけれど。
「それで、はるかに相談したんだ」
こくりと頷くと、莉音は困ったように眉をひそめた。
不安そうな彼を安心させたくて、環はその身体をぎゅっと抱き寄せる。
「アイツ……」
してやったり、という生意気な親友の顔が浮かんできて、環は悔しさを隠すようにうえを見上げる。
「うわあ。りお、見て。空」
すこし隙間をつくって促してやると、顔を上げた莉音が感嘆のため息をこぼす。
そこには、漆黒の闇に砂糖をまぶしたような、満天の星空が広がっていた。
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