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第5話

私は杉原先輩に支えてもらって、公園のベンチで落ち着くまで休むことにしました。 「叶、ごめんね」 私には何故杉原先輩が謝るのかが私には分かりませんでした。 先輩が悪いんではないんです、未だに過去に囚われてる私が悪いんです。それを言葉にしたいのに、私の口は息しか出来ないでいました。まるで水の中からあげられた魚のようでした。 「……抱き寄せても大丈夫?」 まるで『腫れ物』のような扱われ方で、私は苦しいのに哀しくて、胸が痛くなりました。……私は先輩の腕に縋ってしまいました。 「馬鹿だね、叶は」 やはり私は迷惑ですか……?だから私を早く帰したいのですか? 先輩の逞しい腕が私の体に回り、ぎゅっと抱き締めてくれました。 「そんな顔して、縋るなんて反則。……弱ってるのに、手ぇ出したくなるデショ」 ……え? 「あぁもう、今日は叶一人にしたくない。サボる!」 杉原先輩はそう言って、抱き寄せたまま制服のポケットからスマートフォンを取り出すと、電話をかけはじめました。 「もしもし俺だけど。叶泣かしちゃったからサボる」 ……かすかに聞こえる声は、先輩の実のお母さん『小雪さん』でした。小雪さんの声は怒っているような口調でした。 「送り狼?しちゃおうかな。え、しないしないっ!外だし」 杉原先輩は小雪さんと約束をしていたのですね。でしたら言って欲しかったです。 そして行って欲しかったです。 親子の邪魔なんてしたくないんです。 「ん、叶が許してくれるまでセックスはしない。『合意』なら良いんデショ?」 小雪さんの怒る声が聞こえそうな時に、杉原先輩は強引に電話を切ってしまったみたいでした。……こういう風に明るい態度で接しようとしてくれるのは、先輩の優しさと思いやりだと知ったのは最近になってからでした。私は直ぐに悩んで落ち込んで、ネガティブな感情の時なるときに、そう接してくれるのは杉原先輩の優しさからから出来ています。 「叶、ゆっくり息して?出来るだけで良いから。酸欠で身体が、痺れてくるよ」 ポケットに仕舞ったスマートフォンの腕がまた私の背中にまわりこんできました。 「……せんぱ……い……」 少し休んで私はようやく少しだけ落ち着いてきた息で微かに言葉を発する。 「無理に喋んなくてイイよ」 でも言いたい。 伝えたい二文字の言葉。 「……すき…」 未だに言いにくい言葉ですが、こういう時には言いたいです……伝えたいです。 「……馬鹿な叶」 ………え? 瞬間唇が重なると同時に息が入り込んできました。それを何度も繰り返されると徐々に息が整ってました。 それとは逆に今度は心臓が早くなってきました。それは……私が少しずつ、キスだと意識し始めたからです。それでも、優しいキスで……もっと欲しくて私は杉原先輩の胸にしがみついてしまいました。 「叶?」 「今日は曇りですが、……優しくしないでください」 もう回りはすっかり日が落ちていて街灯と家に灯る明かりしかない。 「なぁに?今まで弱ってたのに随分積極的だね」 「……私は『腫れ物』じゃありません」 先程気にしていたことを、つい言葉にしてしまいました。 「叶は『腫れ物』じゃなくて『硝子細工』だよ」 私が『硝子細工』? 「うっかり扱ったら壊れそうだよ」 また唇が重なり、今度は噛みつかれそうなキスをされていました。違う意味で息が荒くなり、外だというのにベンチに押し倒されてしまう。 「……先輩っ、外です!!」 「あれ?……屋内なら『合意』だったの?」 楽しそうにのし掛かったままの杉原先輩を押し返そうとするけれど、それは無理なのは分かってます。 分かっていてもしないよりはいいです。 「『結構丈夫』な叶の身体はいつか『壊しちゃいたい』し」 「……どういう意味の『壊す』ですか?」 「あれ、分からない?この体制なのに?!」 もう。 「あの。先輩の進路、聞いてもいいですか?」 分家を継ぐのは決まってるんだ。それが分家の『業』なんだよ」 ……『業』ですか? 「小指の赤い糸に縁の無い『業』……かな?」 「え?」 「掃き溜めだから。……悪く言うとだけどね」 それはどういう意味なのでしょうか? 「俺の小指の赤い糸の先が、叶に繋がってたら良かったな」 男同士でそんなことありえるんですか? 「せめて心と身体を繋げたい、そう思ったらダメかな」 私もいつかそんな日が来たら良いと思ってます……なんて恥ずかしくて言えませんでした。 「『合意』が出たらいつでも言ってね」 ごっ……ごごご『合意』っ?!私は飛び起きて、 「ごっ……『合意』はまだありません!!」 寝転がったままだと危険かもしれませんから! 「まだぁ?!ちぇ、残念」 杉原先輩はまたあの困った笑顔を私に見せてくれました。それはそうと何時もより優しい笑顔です。 「さて、身体が大丈夫なら帰りますか?かなえちゃん」 ……今日は曇りですから『物足りない恋愛の日』。 (……もっとゆっくりしたい、なんて言えません) 私はまた本音を言えず杉原先輩に自宅まで送ってもらいました。

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