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第7話

(僕はゼノンじゃない。今の僕は女性。ただの伯爵令嬢)  自分に言い聞かせるように胸の内で何度も何度も繰り返し、顔を上げる。すると視界の端にキラリと光るものを見つけた。視線を向け、ゼノンの顔がパァッと輝く。  黒のベルベットに乗せられた、色とりどりのブレスレット。その中央に、ゼノンが求めていた青色が輝いている。  足早に近づいてブレスレットを見れば、一つ一つ細かな部分が違うようだ。しかしやはり青のブレスレットが一番ゼノンの好みである。店内を歩いている間に売り切れてしまっては悔やんでも悔やみきれないし、姉がいつ買い物を終えても良いようにと、ゼノンは店員の一人を呼んでブレスレットと他数点を買うことを告げる。店員はにこやかに微笑み、ゼノンが示した品物と代金を預かり、しばらくお待ちくださいませと奥に向かった。その時、突然「きゃぁ!!」と甲高い悲鳴が店内に響きわたる。何事かと皆の視線が声のする方へ向けられた。 「触らないでくださいな! なんて汚らしいッ。どうしてあなたのような薄汚れた子供がここにいるんですの!?」  普通にしてよいと言われたとはいえ同じ空間に王子もいるというのに、その女性はキンキンと金切り声を上げた。見ればいつの間にか奥に通されていた様子の王子が異変に気付き扉を開いて様子を見ている。しかし女性は王子が見ていることに気づいていないのか、目の前の小さな存在に怒り、ワナワナと震えていた。  そこには、確かに少々場違いな少女が肩を震わせながら立っていた。貴族の女性が多く集まり、現に今も王子がお忍び――に、なってはいないが――で訪れるほどに高価な物が並ぶこの店では何一つ買えないのでは? と思ってしまうほどに少女の恰好は質素だった。 「ぶ、ぶつかっちゃって……、ご、ごめんな、さい……。あの、あたし……かあさんに……」  あまりに女性の怒り声が恐ろしかったのだろう、少女はボロボロと涙を流し、しゃくりあげながらモゴモゴと何かを言っている。よく見れば少女はまるでお守りのようにボロボロの布袋をギュッと手が白くなるほどに握りしめていた。 (あー、まいったな……)  本当は、目立つようなことは避けたい。何より王子さえも見ているのだ。動かないのが得策だろう。でも、このまま見捨てる自分は、きっと汚泥よりもなお醜い。

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