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第20話
「君に直接謝罪がしたかった。国の為に今まで縛り付けてきたというのに、私は婚約破棄をしたいと父に願い出た。君が私に惚れているなどといった自惚れは抱かないが、それでも君を振り回すだけ振り回してしまったことは事実。どんなに詫びても許されるとは思わないが、それでも詫びたい。申し訳なかった」
そう言って、王子は胸に手を当てるとその場で片膝をついて頭を垂れた。その姿にゼノンは驚き固まってしまう。
一国の王子が婚約していたとはいえ、たかだかいち伯爵令息に謝るばかりか膝をつくなど!!
すぐに止めるよう言わなければならないが、ゼノンはただ固まることしかできなかった。人間驚きすぎると身体は動かないし、声も出なくなるらしい。
「王子、ゼノンがビックリしすぎて固まっておりますわ。もとより、ゼノンはあまり怒っておりませんの。どうぞお立ちくださいませ」
固まってしまったゼノンに代わり、アナスタシアが王子を促す。王子は少し迷ったのちに立ち上がった。
「王子、弟は真摯な謝罪を受け入れないほど狭量ではございませんのよ。今だって、恨み言ひとつ申しませんわ。ですが、私はこの子の姉として知りたく存じます。王子がお好きになったお方は、どなたですの? 確かプリスカのお店にお越しになった際、お見初めになったとか。実は私もその日、所用があってプリスカのお店におりましたの」
扇で口元を隠しながら、臆することなく問いかけるアナスタシアに、ようやく戻ってきたゼノンは内心首を傾げる。そんなことを聞いてどうするというのだろうか?
「ご令嬢もおられたのか。では、彼女を知らないだろうか? 実は恥ずかしながら、探しているのだが未だに見つけられないのだ。あの、勇気ある優しい女性を」
きっとその女性のことを思い出しているのだろう。王子の目元が優しく緩む。それにしても、国が探しても見つからないとは珍しい。確かに数は多いだろうが、貴族令嬢全員を調べることなど国ならば容易いだろうに。
「勇気ある優しい女性でございますか? しかしあのお店に来るのはほとんど女性貴族でございますから、さてどなたのことか……。何か特徴などはございませんの?」
入りづらいとゼノンが女装をしたくらいだ。確かにあの店にいた美しい貴族女性など該当者が多すぎる。ゼノンはうんうんと姉の言葉に胸の内で何度も頷いた。
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