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第4話 『香草店』

 翌日、レヴィンは再び街に出ていた。    王都から馬車で三日ほどかかるこの街レイトンは、華やかさはないが、のどかな中にも活気があった。    人々の顔は明るく、大らかだ。朝市が開かれており、穫れたての野菜が並び、籠に入った鳥も売られている。    食材を買い求める人々の声があちこちから聞こえた。    レヴィンはその光景を見て歩き、人の流れも落ち着いた頃に香草店に入った。    いらっしゃい、と店の奥から男の声がした。薄暗い店内のカウンターの中にいる。    店主だろう。    様々な香草が入り混じった独特な匂いがする。  レヴィンは珍しそうに店内を見渡した。棚には瓶に入った香草が所狭しと並んでいた。    レガナ、シオランなど香草の名前が書かれた瓶をひとつずつ見ていたら、店主が声をかけてきた。 「なにかお探しで?」  レヴィンは品物から目を離した。香草が欲しかったわけではないのだが、珍しくてつい見てしまった。    目的を思い出し、カウンターに近づく。  店主は大工なのではないかというくらい、筋骨隆々で体格がよかった。 「訊きたいことがあるのですが」  レヴィンは言葉遣いに注意をした。いつも通りに話すと高圧的になるからだ。 「なんでしょう?」 「昨日、黒い髪の人が来ていたと思うのですが」 「ああ、それがなにか」 「彼がどこに住んでいるのか、知りませんか」  店主は怪訝そうにした。あたりまえだ。  フードをかぶって顔を見せないようにしている男からこんなことを言われたら、警戒してしまうだろう。    レヴィンにしてみれば、誰の目も惹く朱色の髪を見られたくないだけで、顔を隠すつもりはない。    ただ、前髪まですっぽり覆うフードをかぶると顔の半分が隠れてしまうのだ。  怪しまれて何も教えてくれないのは困る。  レヴィンは言葉を足した。 「友人かもしれないんです」  店主は片眉を上げた。 「この街には先月引っ越してきたばかりで、知り合いもいません。  そしたら彼がこの店から出てくるのを見かけました。もし友人であれば、会いたいのです」  店主はフードの中をのぞき込むようにして言った。 「お客さんはどこに住んでるんで?」  レヴィンは少し考えて「北西の方です」と答えた。  店主はその言葉に軽く口を開き、すぐにつぐんだ。  レイトンの住宅街は二つに分かれている。  庶民が住む西門付近の住宅街と、そこからさらに北西に向かった先にある貴族街だ。    レヴィンは自分が貴族と関わりのある者だと名乗ったようなものだった。  貴族の屋敷に勤める使用人、もしくは、その貴族本人であるか、だ。  レヴィンは店主の答えを待った。

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