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第3話 『接触』
凶器を突きつけられたレヴィンは、乾いた唇を湿らせて言った。
「……友人だと思ったんだ」
自分でも思いがけないほど、弱々しい声が出た。脅されているという恐怖ではなく、哀しみが滲んだのだ。
レヴィンの答えにしばし間が空いた後、背にあたっていたものが離れた。近くに感じていた人の気配が遠ざかる。
「顔を見せろ」
冷たい声に、レヴィンは言われた通りフードをとって、振り返った。
生い茂った樹木の葉から零れるように、午後の陽射しが二人の間に割って入る。
彼らの視線が合ったとき、黒髪の青年が息を呑んだのがわかった。
レヴィンがフードで隠していたものは、己の髪の色だった。
黒い髪も珍しくはあるが、自分の髪はもっと珍しい朱色だった。強い視線を感じた。
レヴィンもじっくりと彼を見た。
黒い髪と同じ黒い瞳。東国の民は切れ長の目が多いときくが、彼の目はくっきりとしていた。細面で鼻筋の通った顔。
やはり、リウによく似ている。
レヴィンが目線を下にずらすと、彼が右手に持っていたものを知り、空を仰ぎそうになった。
ナイフで脅されていると思っていたが、先の尖った長い枝だった。
彼はレヴィンに危害を加える気はなかったのだ。もし、自分がナイフを抜いていたら、どうするつもりだったんだと、逆に心配になった。
呆れ半分で、もう一度、彼の顔を見直した。
この朱色の髪を見て、子どもの頃のように愛称を呼んでくれるかと期待したが、彼は何も言わなかった。
レヴィンは静かに話しかけた。
「……きみは、リウではないのか?」
食い入るようにレヴィンを見ていた彼は、ハッとしたようだった。
「人違いだって言ったろ」
「だったら、きみの名を教えてほしい」
沈黙が流れる。
森に近いせいか、鳥の鳴き声がやけに響いて聴こえた。
緊張を破ったのは黒髪の青年だった。
右手に持っていた枝を道端に投げると、おもむろにズボンのポケットに手を入れた。
レヴィンが目を離さずにいると、ポケットから手を出し、何かをレヴィンに向かって投げた。
反射的に右腕で顔をかばう。
投げられた物が後ろの木に当たり、コツンと音がした。音のした方を振り返ると、真後ろの木の根元には、彼が投げたと思われる木の実が転がっていた。
訝しげに半身を戻すと、黒髪の青年は林道を外れ、森の中に駆け込んでいた。
「待ってくれ!」
慌てて追いかけて森に入ったが、すでに遅かった。
目を離したわずかな隙に、もう彼の姿は見えなくなっていた。レヴィンはそれ以上、踏み込むのをやめた。
昼間であっても鬱蒼として暗い。土地勘のない森に入るのは危険だった。
レヴィンは林道に戻り、ため息をついた。
逃げられてしまった。
木の枝で脅され、投げた物に気を取られた。どちらも子ども騙しだ。
それに引っ掛かった自分が情けなく、レヴィンはフードをかぶって顔を隠した。
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