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第2話 『追うか否か』
街の中心にある尖塔の鐘がリンゴンと二回鳴った。太陽が中天にきたことを知らせる鐘の音である。
黒髪の青年は街の南門に向かって歩いていた。レヴィンもそっとついて行く。
門を出るとそこから先は林道が続き、やがて森に入ることになる。
南門から先は行ったことがない。ただ、森の中に村や里があったことは覚えている。地図がないので、詳しいことはわからない。
追うか、否か。
今ここで彼を見失えば、いつまた会えるかわからない。正午を過ぎ、鞄の中身を空にして街を出るということは、夕刻の街の閉門までに戻ってくるとは限らなかった。
そうなればこの街に彼の住居はない。どこかの村に住んでいるなら、せめてその場所だけでも知りたい。だが、夕刻の閉門までに戻って来れるだろうか、とレヴィンは迷った。
しかし、逡巡したのも束の間だった。
閉門したとしても自分には特権がある。街には入れるだろう。
レヴィンは心でうなずき、追うことにした。
視界の先で立ち話をしている女ふたりが、黒髪の青年を見ていた。噂話をするかのように、顔を寄せている。
東国の民は珍しいので、話の種にはなりそうだ。
レヴィンは女たちに顔を見られないように、うつむき加減で通り過ぎた。
顔を上げたとき、黒髪の青年は門に差しかかっていた。
そのとき、彼は足を止めた。
街の外から門を抜けて入って来た男と話しをしている。
レヴィンも離れたところで立ち止まると、青年は急に振り返った。
レヴィンは驚いた。
黒髪の青年は街中を指で示しながら、一瞬、こちらを見たような気がした。
隠れる場所などない。内心、どきどきしながら、通りの向かいにある果物屋を見ているように装った。
彼と話していた男は、礼をするかのように片手を挙げ、街中に進んできた。レヴィンとすれ違う。
道でも訊いたのかもしれない。
レヴィンが顔を戻すと、黒髪の青年はずいぶんと先を行っていた。歩みが速い。
レヴィンもまた南門を通った。
街を出る前に気づかれたかと思ったが、黒髪の青年が振り返ることはなかった。
荷馬車がレヴィンを追い越し、彼の横を過ぎていく。
歩を進めていると、馬車がすれ違える道幅のあった林道も、徐々に狭くなってきた。
陽光が樹木の葉に遮られるほど森に近づきはじめた頃、道の先が二つに分かれているのに気づいた。
黒髪の青年は右に曲がった。
木の陰に入り、姿が見えなくなる。
曲がった先が直進とは限らない。レヴィンは急ぎ足で追いかけた。
右の道を曲がる。だが、そこで足を止めてしまった。
道はまっすぐ続いていた。だが彼の姿がない。
慌てて周囲を見渡すが、見当たらない。林道を外れると森に入ることになる。
彼は森に入ってしまったのだろう。
見失ってしまった―
レヴィンは肩を落とした。ため息をつき、仕方なく踵を返したそのとき。
突然、背後から腕が回ってきて、首をがっちり固められた。男の腕だ。
驚いて腰に下げているナイフを抜こうとしたら「動くな」と忠告された。
先端の細いものを腰にぐっと押し付けられている。ナイフかと思い、ぞっとした。
レヴィンは大きく息を吸うと、抵抗の意志はないことを示すため、両手を軽く上げた。
「なんで俺をつける」
記憶の中のリウからは想像もつかないほど、低く警戒した声が、耳元でした。
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