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第10話 『森の家への道』

 春うららかな陽射しは、しかし歩き続けていると汗ばんでくる陽気でもあった。  そんな中でもレヴィンは旅装束のフードを取らなかった。少々暑い。夏はどうするか考えねばと思った。    二人は南門を出て、林道を歩いている。クオンの家には一刻で着くと聞いたレヴィンは少し驚いた。どの村よりも近い。二人の脇を通った馬車が土埃を起こした。    レヴィンは一歩先を行くロッドに話しかけた。 「彼が流れ者だから村には住んでいないというのは、どういう意味ですか」  香草店で店主に言っていた言葉が気になっていたのだ。  ロッドは「敬語は使わなくていいよ」と前置きしながら言った。 「ここら辺の村は、よそ者は住まわせないんだ。村の奴と結婚するとかなら別だけど」  ロッドはクオンについて教えてくれた。  彼は五年前、ロッドの住む村にやってきたという。クオンは村に住まわせてほしいと交渉していたが、新参者なので断られていた。    村人は客人には好意的に接するが、住むとなれば難色を示す。閉鎖的ではあるが、村の治安は守られるからだ。  例にもれず、クオンは村の住人にはなれなかった。以来、森の中に空き家を見つけ、そこで暮らすようになった。  ロッドは村人たちのそっけなさを申し訳なく思いながら、流れ者の彼のことが気になり、なにかと世話を焼いていたようだ。    森の中は不便でもある。街に住むことを勧めてみたこともあるが、そうしないのだといった。  ロッドは肩をすくめながら、 「森にいる方が薬草茶づくりにはいいんだと」  と、苦笑しながら言った。 「薬草茶? 香草茶ではなく?」 「あいつは薬草茶づくりが中心だよ。香草茶はあそびみたいなもんらしい。飲みやすい薬を作ろうとして、偶然できたとか言ってたな」    ロッドは後ろ頭で手を組んだ。続けてレヴィンが尋ねようとすると、半歩振り返りながら、 「詳しいことは本人に聞いてくれ。あまり話すぎると怒られる」 と言った。  ロッドが前を向くと、二又の道が出てきた。迷わず左に行く。レヴィンは立ち止まった。 「右ではないのか」  指摘すると、ロッドは「いや、こっちだ」と歩みを止めなかった。  先週追いかけた時は確かに右だった。その先の森の奥に入っていったから、一昨日も右の道の先にある村まで行ったのだ。    自分がつけていたことに気づいたクオンは、あえて別の道に逃げたのか。 「…………」  レヴィンはロッドについて左に曲がった。  林立する樹木の道は続く。今日もまた天気は良く、茂った葉が道に影を作っている。  ロッドに会えたことは幸運だった。そうでなければ、しばらく無駄足を踏むところだった。    黙ってついていっていると、ロッドが不意に立ち止まった。レヴィンをまっすぐに見つめて言った。 「一回しか教えないからな」  家への隠された道だと思い、レヴィンはうなずいた。ロッドは林道を外れ、樹木の間をすり抜けるように森に入っていった。大木が邪魔をし、ロッドを見失いかける。    レヴィンは腰に下げていたナイフを抜き、近くの木を切りつけた。急ぎ後を追う。  進む方向がわからなくなりそうで、時折、木に印をつけた。  そのうち、意外にも樹木は均等に並んでおり、人ひとりが進めるような道になっていることに気がついた。  しばらく奥に進むと、広場のようなところに出た。一休みできそうな空間だ。ロッドはレヴィンを振り返り、 「次はこっち」  と、さらに進んだ。  目印になるものを探すと、地面に埋まっている石があった。そこからは背丈の高い草むらの中に入っていった。足元は踏みならされている。生い茂る草をかき分けていく。  枝葉の間隔が狭く、ロッドがかき分けた細い枝が反動でレヴィンに当たった。それも束の間、枝葉の間隔が次第に広くなり、歩きやすくなった。  ところがまた藪が目の前に現れ、げんなりしてかき分けたとき、いきなり目の前が開けた。    広い敷地に出たその先には、菜園、井戸、そして木造の一軒家があった。森の中に突如現れた家屋にレヴィンは驚いた。  ロッドは目くばせでクオンの家だと教えてくれた。その足で木造家屋に向かい、玄関扉を開けた。 「クオーン、いるかあ」 「いるよ」  間を置かず、家の中から声がした。ロッドの後ろにいたレヴィンは息を吸った。

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