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第9話 『連れていってやる』

 四人掛けの席に向かい合わせに座り、ロッドは「なんでもいいか」と訊いてきた。うなずくと、肉料理を二つ頼んだ。  昼間だというのに店内は酒の匂いも混じっていた。あちこちから聞こえてくる高い笑い声は、店の繁盛を物語っていた。  ロッドは片肘をついて、フードの中の顔を見ようとした。目が合わないと話しづらいのだろう。 「名前聞いてなかったな」 「レヴィンです」 「クオンが昔の友人かもって、どういうこと」  ロッドは片肘をついたまま、少し体を斜めにした。  レヴィンは自分が十歳の頃に出会った少年のこと、周囲に馴染めない自分の唯一の友人だったこと、十五歳のときに彼が突如として姿を消したことを話した。  さすがに出会った場所は宮廷であり、自分は第六王子だということは伏せた。 「それで、この街でクオンを見かけたから、その時の友人かどうか確かめたい、と」  レヴィンはうなずいた。 「そもそもさ、そいつの名前、『クオン』なのか?」 「……ちがいます」 「なんて名?」  このやり取りには覚えがある。レヴィンは彼の名はリウだと言った。するとロッドは開いた口を一度閉じ、声を落とした。 「それは……。別人じゃないのか?」  そうだ。誰だってそう思うのがふつうだ。だが、レヴィンはそうは思えなかった。  目に力がこもる。 「よく似ているんです、とても。あまりにも似ているから、本人かどうか確かめたいんです」 「けど、名前が違うだろ」 「何か理由があって、名前を変えたのかもしれない」  レヴィンが言うと、ロッドは頬に当てていた手を口にあて、窓の外を見た。そのまま動かなくなった。  客が店員を呼ぶ声が聞こえる。しばらく黙したままでいると、注文していた食事がきた。  皿の半分に肉が盛ってあり、申し訳ない程度に野菜が乗せられている。    ロッドは無造作に肉を切り、口に放り込んだ。レヴィンもそれを見て、肉を切る。  食事中、会話は一切なかった。ロッドは食べながら何かを考えている感じだったので、レヴィンも話しかけなかった。    ロッドは早々に食べ上げ、レヴィンの食事が終わるのを待っていた。  食べ終わり、水を飲んで一息つくと、ロッドは両手を付いて立ち上がった。 「クオンのところに連れていってやるよ」  どうやら友人の査定に合格したようだ。レヴィンは口元を綻ばせた。 「ありがとう」  丁寧に頭を下げ、立ち上がる。ロッドが店員に硬貨を渡そうとしたので、レヴィンは制止した。二人分の硬貨を渡す。 「礼にしては安いと思うが」と言うと「十分だ」とロッドは言った。  

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