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第13話 『知らないふり』

 リウは東国で親に売られ、逃げ出したところを庭師が養父になってくれたのだという。  辛い思いをしてきただろうに、屈託なく笑うリウが眩しくて、元気をもらった。  同い年ということもあり、すぐに仲良くなった。  リウは庭師の手伝いをしていたが、レヴィンが声をかけると、庭師は彼を仕事から解放してくれた。今思えば、王子である自分に配慮してくれたのだろう。  何度かそういうことを繰り返していたら、リウは宮廷に来るとレヴィンを探してくれるようになった。  二人でいろんな話をした。友達ができたと思った。    彼に出会ってからは、兄たちからいじめられても、友達がいると思うと平気になった。    リウはレヴィンの朱色の髪を、情熱的な色で好きだと言ってくれた。生まれて初めてそんなことを言われて、飛び上がるくらいうれしかった。ずっと一緒にいたいと思った。  ところが出会ってから五年。レヴィンが十五歳のとき、リウは何も言わずに姿を消した。    リウがいなくなったと庭師から聞いたときは、頭が真っ白になった。たった一人の友人だ。探しに出たかった。  だが当時十五歳であっても、レヴィンに自由はなかった。彼を知る大人達に探してもらうよう願い出ることしかできなかった。    事あるごとにリウの行方を訊いてみたが誰もわからなかった。養父の庭師ですら諦めていた。    何度も訊いていると、そのうち相手にしてくれなくなった。レヴィンも次第にリウがどこかで元気に暮らしていることを願うようになっていった。    春風がレヴィンの髪をさらっていく。    自分はいつ政治の道具として使われるかわからない身で、これまで宮廷で過ごしてきた。  そして先月、第二王子の不興を買い、宮廷から追い出された。身の潔白を訴えはしたが、無駄だということはわかっていた。  この身は政治の道具として使われるのなら、それはそれで国の役には立つ。  だが宮廷の厄介者として王都から追放されたとなれば、自分に存在意義はない。何をして生きていけばいいのかわからなかった。    そんなとき、街で『彼』を見つけた。辛かった少年時代を救ってくれた彼がまた現れた。    レヴィンは希望を見た気がした。    五年前、リウは置手紙一枚残して、庭師の家を出ていった。手紙には「探さないでください」と一言だけだったという。  庭師に何があったのか訊いても、首を捻るだけだった。いらだったレヴィンは、 「養父のくせに、なんでわからないんだ!」 と、庭師を責めた。だが、それは自分に対してのセリフだった。  リウはあのとき、出て行くほど辛いことがあったのだ。それなのに自分はリウの変化に気づけなかった。  レヴィンはそのことを悔やんでいた。と、同時に辛いことを相談してもらえなかったことが悲しかった。 『彼』に出会って、レヴィンは思った。  リウは過去を忘れ、名前を変えて新しい人生を送っているのだ。  だから、リウはクオンという名で自分を知らないふりをしているのだ、と。  それなら、それでいい。自分もまた、知らないふりをして接していくまでだ。    そばにいれば、きっと何かわかる気がした。

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