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第14話 『もてなし』
レヴィンはいつの間にか眠っていたようで、草葉を踏む音で目を覚ました。
森からひょっこり出てきた彼を見て、思わず「リウ!」と叫びそうになった。喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
クオンは木の下にいたレヴィンに気づくと、呆れた顔をした。
レヴィンは立ち上がった。
クオンは背中に籠を背負っていた。
彼のそばに行くと、「昨日の今日で来るかな、まったく」と、ため息を吐かれた。
「好きなときに来ていいと」
「そりゃ言ったけど。いつからいたんだよ」
「街が開門してすぐにきた」
太陽は天頂を過ぎたくらいにある。二刻は経っていた。
クオンは何も言わず、家の横にある井戸に向かい、背負っていた籠を下ろした。籠の中をのぞいてみると、根の付いた草が籠の半分くらい入っていた。
採取してきたのだろうか。
訊く間もなく、クオンは家に入っていった。玄関扉は開けられたままだったが、入っていいのかわからず、躊躇した。
「ここまで来といて、遠慮すんのかよ」
玄関先で戸惑っているレヴィンにクオンは口端を上げた。「入れ」と笑ってくれたことに少し驚いた。昨日までの刺々しさはなくなっている。レヴィンは少しホッとした。
家の中に足を踏み入れると、クオンが言った。
「今日みたいに俺がいなかったら、勝手に入っていいからな」
「不用心じゃないか?」
「こんなところ知ってるやつ以外、誰も来ねえよ。ロッドなんて、勝手に茶を沸かして飲んでるくらいだ」
クオンは「座って待ってろ」と言い置いて奥に行った。レヴィンは昨日と同じ椅子に腰を下ろした。
木造二階建ての家屋。玄関を入ってすぐに椅子とテーブルがあり、壁につけられたテーブルの上には窓から陽が射し込んでいる。
クオンは奥に入っていったが、手前にはもうひとつ部屋があり、二階へ続く階段もあった。華美なものは一切なく、生活に必要なものだけしかない。質素な暮らしといえる。
しばらくすると、煮炊きの匂いがしはじめた。
クオンがなかなか戻って来ないので、様子を見に行こうかと思った矢先、両手にスープ皿を持って奥から現れた。どうやら台所だったらしい。
レヴィンの目の前に食事が置かれた。スープの中にパンが浸してある。
クオンは椅子をひきながら、「貴族の口には合わないだろうけど」と言った。
レヴィンは首を振った。
裕福ではないことは家を見ればわかる。それにも関わらず、もてなしてくれたことに彼の優しさを感じた。
「すまない……迷惑をかけている」
気落ちすると、クオンは肩をすくめた。
「それはいいよ。俺が来ていいって言ったんだ……あ」
クオンが何かに気づいたようにレヴィンの顔を見ている。
「切ってるな」
左頬のあたりを指さす。レヴィンが触ってみると、チクッと痛みが走った。指先にわずかに血がついた。
「ここに来る途中の葉でやられたんだな」
確かに森の中で何度か顔に葉が当たったが、切ったことには気づかなかった。
クオンは立ち上がると、手前の部屋に入り、すぐに戻ってきた。手に丸い小さな入れ物を持っている。
「ここらの草木は毒を持ってるものが多いんだ。触れるだけでかぶれることもある」
丸い入れ物は薬入れだったようだ。
クオンは練られた薬を指ですくい、レヴィンの頬に塗ってくれた。触られたところがやけに熱く感じた。
レヴィンは急に恥ずかしくなり、スープに目を落としながら「ありがとう」と小さな声で言った。
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