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第16話 『Go Home』
クオンの手伝いをすることを条件に、レヴィンの森の家通いが始まった。
そして、二日目にして早速ハプニングがあった。
レヴィンは昼食などの気遣いはされないように、早めに食事をすませ、陽が頂点になる前に街を出た。中天の鐘の音は林道を進んだ先で聞こえてきた。
ハプニングの元凶は、クオンの家に行く途中の森の中で見つけた。石が埋まっているのが目印になる、あの中程の広場だ。
レヴィンはそこにある大木の根元に兎が横たわっているのを見つけた。死んでいるのか確かめようとと屈んでみた。
腹の辺りをそっと触ってみると、柔らかい。まだ生きている。かすかだが腹が上下していた。呼吸が小さく、浅かった。
抱き上げてみたが目を覚ます気配はない。死にかけているのだろうか。
レヴィンは放っておけずに兎を抱いて、クオンの家に行った。
勝手に入っていいとのことだったが、玄関を開けて「クオン、いるか?」と言ってみた。
家主は家にいた。薬草が並べてあった部屋から出てくると、兎を抱いているレヴィンを見て驚いた。
「どうしたんだ、それ」
クオンが言った瞬間、それまでぐったりしていた兎の耳がぴくっと動き、目を覚ました。
途端、兎はパニックを起こし、レヴィンの腕の中で暴れた。
「わっ!」
驚くと、兎はレヴィンの腕から飛び降り、家の中を猛烈な勢いで駆けた。
クオンが「あ‼」と声を上げた。
兎はクオンの足元をすり抜け、薬草のある部屋に入っていった。床に並べてある薬草の上を踏んづけて走っている。
レヴィンが捕まえようして部屋に入ると、驚いた兎はさらに無茶苦茶に走った。追いかけるほど、俊敏に逃げ回る。
壁に当たりそうになると方向転換し、四方八方駆け巡り、部屋を出て、そして勝手に玄関から出ていった。
走り去っていった兎を呆然と見届けると、ハッと現実に戻った。
小さな嵐が去ったあとの部屋を見回した。何種類もの薬草が見事にひっかき回されており、粉塵も舞っていた。
クオンは部屋の惨状を見て、頭を押さえた。
「あの……」
震える思いで声をかけると、クオンは大きく息を吸って長く吐いた。
そしてゆっくりと、静かに、開け放した玄関の外を指さした。
レヴィンは何も言えずにすごすごと玄関に向かう。
一刻をかけて歩いてきたというのに、もう帰らねばならないのか。
レヴィンは恩情を求めて振り返ったが、部屋に入ったのだろう、クオンの姿はなかった。
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