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第19話 『お手伝い』

 薬草茶づくりというのは実に興味深かった。それぞれ効能の違う薬草を天日でからからに乾かし、細かくしたり、すりつぶしたり、他の薬草や香草を混ぜたりと行程は様々だった。    レヴィンが頼まれたのは、クオンが採取してきた草花の土を落とす作業だ。井戸水を汲み上げ、きれいに洗う。洗い終わった草花は敷物の上に並べて乾かす。  風のない日は外で干し、吹き飛ばされそうなときは家の二階に持っていく。  二階の手前の一室はクオンの寝室で、その隣に広い部屋がある。二階は日当たりが良い。大きな窓に加えて、上から陽が入るように天窓もあった。    薬草は干して三日経つと水分が抜け、触ると粉のように崩れるものもあった。  他の薬草と混ざらないように分けておく。クオンから粉末にするように言われたときは、すり鉢を使って粉にした。    この工程をひとりでやっていたのかと思うと、ずいぶん手間のかかる作業である。 クオンがレイトンの街に品物を持っていくのが二か月に一度というのもうなずけるものだった。    手伝いを始めて二週間が過ぎた頃、レヴィンは自分の作業が終わると、お茶を入れてクオンが出て来るのを待つようになった。  クオンは調合中は話しかけられたくないようだった。はっきりと言われたわけではないが、反応が鈍いし、待たされることもあった。  集中しているときに手を止めたくないのだろう。レヴィンは極力、話しかけないようにした。夕刻前には出てくるので、それに合わせてお茶が入っているとうれしそうだった。    レヴィンは街が閉門する前に帰るので、ゆっくり時間がとれるわけではなかったが、クオンの作った香草茶を飲みながら、他愛無い話をするのが楽しかった。    森の家に通うようになって、一か月が過ぎたときだ。珍しく来訪者があった。    レヴィンはそのとき、薬草畑の雑草を抜いていた。人影が現れたときは驚いたが、その顔見て立ち上がった。ロッドがにっこり笑ってやってきた。 「よ。クオンに言われてやってんのか」 「ロッド。久しぶりだ。クオンなら調合中だ」 「なら、待たせてもらうか」  どうやらロッドも調合中は声をかけないようにしているらしい。 「お茶入れる」  レヴィンが言うと、ロッドはくすりと笑った。「なんだ?」と訊くと、ロッドは可笑しそう目を細めた。 「レヴィンって上流階級の人間だろ」  ロッドも気づいていたらしい。レヴィンは上流階級の中でも頂点である王族だが、それは口が裂けても言えない。  上流階級に間違いはないので、澄ました顔で言った。 「それがどうかしたか?」 「雑草抜きにお茶入れなんて、使用人がやるようなことだろ。クオンもわかってて、よくやらせるなって思ってさ」  その言い方にムッとした。 「手伝いを申し出たのは私だ。身分は関係ない」  そもそも貴族だとわかっていて、無礼な口をきくロッドもロッドだ。類は友を呼ぶというやつではないか、と言い返そうかと思ったが、それはそれでやはり面白くないのでやめた。  ロッドに背を向け、家に入る。湯を沸かしに台所に向かった。  台所の棚にあるカップの数を気にしたことはなかったが、全部で四つあった。そういえば椅子がひとつ足りない。そろそろクオンも出て来る頃だ。  さて、どうしようかと思いながら、沸いた湯を茶葉と一緒にポットに入れて、テーブルに持って行くと、ロッドは三つ目の椅子に座っていた。 「それ、どこにあったんだ?」  椅子に目をやると、ロッドはさらっと言った。 「クオンの部屋」 「…………」  二階にある手前の一室のことだ。レヴィンはまだ入ったこともなければ、中の様子も知らない。部屋の扉はいつも閉まっていたからだ。  だがロッドは彼の部屋に椅子があることを知っており、勝手に入っても許される人物なのだろう。  友人としての年季の違いもあるが、クオンの信頼を得ているロッドを、レヴィンはうらやましいと思った。

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