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第18話 『特別茶』

 クオンは黒い瞳をまっすぐに向けて言った。 「来る頃だと思ったよ」  レヴィンは扉を大きく開け、家の中に入るとクオンの前に立って頭を下げた。 「きのうはすまなかった」  罵詈雑言も覚悟していたが、クオンは驚くほどあっさりしていた。 「しょうがない。あれは事故みたいなもんだろ」 「許してくれるのか?」 「めちゃくちゃ腹は立ったけどな」 「…………」  レヴィンが小さくなると、くすっとクオンが笑った。テーブルに置いてあったティーポットを傾け、「まあ、お茶でも飲めよ」とカップを勧めてくれた。  なんだかとても優しい。レヴィンは拍子抜けした。  椅子を引いて座り、カップを受け取った。香草茶だろうか、変わった香りがする。  口をつけた瞬間。  レヴィンは派手に吹き出しそうになった。  不味い! この上なく不味い!  レヴィンは奇跡的に吐き出さなかったが、大きくむせた。  苦味なのかなんなのかわからない。喉にはりつくような、とにかく飲めたものではなかった。  そんなレヴィンを見て、クオンはにやりと笑った。 「兎が後ろ足で配合してくれた特別茶だ。責任もって全部飲めよ」  兎が滅茶苦茶にした、あの薬草を集めたものだろう。レヴィンは絶望的な気分になった。  だが、飲むしかない。  覚悟を決め、何度もむせながらカップ一杯分の兎配合茶を飲み切った。涙目になったところで水をもらい、やっと落ち着いた。舌がおかしい。  レヴィンは大きく息を吐いた。 「この兎の……配合茶は、あとどれくらいあるんだろうか」  床に散乱した茶葉はカップ一杯で済む量ではない。レヴィンは本気で全部飲むつもりだったが、意外にもクオンは止めた。 「全部飲めってのは冗談だ。腹下しの薬草が混ざってる。これ以上は体に毒だ」  クオンに言われて、改めて大変なことをしてしまったと思った。  どう混ざったかわからないものは売りには出せない。  日々薬草の採取をして、乾燥させた売り物を自分はダメにしてしまったのだ。何日分を無駄にしたのかわからない。  だが、クオンはこの激烈に不味いお茶一杯で済ませてくれようとしていた。  申し訳なさでいっぱいになりながら、レヴィンは朝市で買ってきた蜂蜜を取り出した。 「こんなものでは、割りに合わないだろうが」  差し出した瓶を見て、クオンが目を大きくした。 「蜂蜜か⁉」  うなずくと、クオンは手に取って顔を輝かせた。 「ほしかったんだよ! いいのか⁉」  元より、詫びの品だ。レヴィンが「もちろんだ」と言うと、逆に礼を言われた。  笑顔が眩しい。  瓶を持って、ホクホクした顔で調合の部屋に向かったクオンは、部屋の中から頭だけ出した。  喜色満面の笑みを無理やり消したかのような、渋い顔を作って言う。 「今日から一か月は薬草茶づくり、手伝ってもらうからな」  レヴィンは口端を上げて、大きくうなずいた。

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