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第22話 『村の子供達』
トレイの村の水車が見えてきたとき、レヴィンは無意識にフードをかぶりかけたが、その手を止めた。
民衆に朱色の髪を晒 して何を言われるかわからながったが「堂々としてろ」というクオンの言葉に応えたかった。
村の入口には柵が立てられていた。柵の外で三人の子供が石を使って遊んでいる。男の子が二人と女の子が一人だ。そのうち、わんぱくそうな顔をした男の子がこちらに気づいて声を上げた。
「クオンだ!」
その声に二人の子供も顔を上げた。クオンの名を呼んだわんぱくな子は、初めて見る大人を指さした。
「すげえ変な色!」
子供は素直だ。珍しいものに容赦がない。レヴィンは小さな子の言葉に固まり、立ち止まってしまった。
クオンは子供達に近づき、わんぱく坊主を抱き上げた。
「人を指さしたらダメだって、お母さんに教わらなかったか」
たしなめられた子はクオンの顔に鼻を近づけ、ぶーっと口を尖 らせた。クオンは「こら」と優しい声で言った。
「お菓子やらないぞ」
その一言はてき面だった。
「うそ! ごめんなさい!」
二人の子もお菓子と聞いて、目が輝いた。クオンは抱えていた子を下ろし、振り返った。
「レヴィン」
名を呼ばれ、ハッとした。鞄を下ろし、しゃがむと子供達がのぞきにきた。焼き菓子を渡すと、男の子二人は大はしゃぎしながら、村の中に走っていった。
ところが五歳くらいの女の子はレヴィンから菓子を受け取ると、もじもじしながらクオンの足に抱き着いた。
「どうした、ミリイ」
しゃがんで目線を合わせたクオンに、ミリイと呼ばれた女の子は横目でレヴィンを見ながら、耳元で何かを囁いた。そして村に駆けていった。
後ろ姿を見ながら、クオンはくっくっと肩を揺らした。
「……なんて言ったんだ?」
レヴィンは暗い声で尋ねたが、クオンは愉快げに言った。
「王子様みたい、だってさ。やっぱ女の子だな」
レヴィンは小さく目を開いて、苦笑した。自分は「本物の王子様」だ。教えてあげることができたら、びっくりするだろうか。
小さな子ではあったが、悪く言われたわけではないことに内心、安堵した。
村に入ると、水車小屋の辺りでクオンは立ち止まり、肩から下げていた鞄を地面に置いた。先に行った子供達が他の子と大人を連れてやってくる。
その中のひとりに見覚えのある女性がいた。彼女が言った。
「クオン! しばらく来ないから心配してたんだよ」
ふくよかな顔をした中年女性がクオンを見て、大仰に手を広げた。
「メアリーさん、すみません。今回はちょっと時間がかかってしまって。遅くなりました」
子供達は朱色の髪のお兄さんがお菓子をくれることを聞いたようで、クオンには目もくれずにレヴィンに群がった。「お菓子ちょうだい!」と手を出してくる。五、六人に囲まれた。
レヴィンは焼き菓子を配りながらも、クオンとメアリーという女性の話を聞いていた。
「先月、あんたを知らないかって男がやってきたんだ。なんだかすごく怪しかったんだよ。知らないと言ったんだけど、あんたが全然来ないから、何かあったんじゃないかって……」
よかった、とクオンの手を握ったメアリーに、彼は優しく笑いかけた。
「俺を探してたのは、こいつですよ。友人なんです。余計な心配かけましたね」
「そうだったのかい」
メアリーはホッとしたように言った。
あのときは友人でもなんでもなかったが、そういうことにしたらしい。これ以上心配させたくないというクオンの配慮だろう。
レヴィンは立ち上がって、メアリーに会釈をした。
「まあ! めちゃくちゃいい男じゃないか。あんた、ロッド以外にも友達がいたんだね」
「ひどいな」
ずいぶんな言われようだが、気を悪くした様子もなく、クオンは笑っていた。
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