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第36話 『怒られた…』

 フレディと話をつけたレヴィンは翌日、爽快な秋空の下を足取り軽く歩いていた。  商人との交渉は初めてだったが、うまくいってよかった。紅茶をタダで手に入れることができたのだ。調達は少し先だが、レヴィンはクオンに褒めてもらおうと思った。    ところが、クオンは眉を吊り上げた。 「三か月で完成させるって、なんでそんな約束勝手にするんだよ。完成しなかったどうするんだよ!」  褒められるどころか怒られた。予想外の展開で、レヴィンは動揺した。 「いや……! でも、クオンならできるだろう⁉」  慌てて言うと、 「できるできないの問題じゃない。取引は信用が第一なんだぞ。約束を破れば、二度と取引してくれないことだってある。悪い噂を流されたら、他との取引もダメになるんだ」  はったりをかましたことを怒られ、レヴィンは叱られた子犬のようにシュンとした。 「悪かった……」 「わかればいい」  クオンは入れたばかりの香草茶を(すす)った。レヴィンはクオンの手元を見ながら、恐る恐る訊いた。 「で、どうなんだろう、実際」 「どうって?」 「三か月では無理だろうか……」  レヴィンは紅茶さえ手に入れば、新作はすぐにできると思っていたが、クオンが難色を示したことで、不安になった。    カタ、と音を立てて、クオンはカップを置いた。 「作るよ。三か月以内に。絶対完成させる」  それは自信から来るのとは違う、覚悟のような声音だった。クオンは続けて言った。 「できなきゃ、おまえの信用が落ちるだろ」  黒い瞳に見つめられて、レヴィンはハッとした。 「そんなことさせられるかよ」  がしがしと黒髪をかく。  クオンが怒ったのは自分自身の信用が落ちるからではない。交渉の矢面に立ったレヴィンのことを言っていたのだ。  レヴィンはクオンの役に立ちたかっただけなのに、結果、彼に無理をさせてしまうことになり、落ち込んだ。そんなレヴィンを見て、クオンは微かに笑った。 「ま、紅茶を手に入れてくれたことは感謝する。ありがとな」  呆れられてはいたが、優しい声だ。レヴィンは胸が熱くなった。   クオンは「けど!」と語調を強めた。 「新作が完成するまで、今まで以上にこき使うからな。しっかり働けよ」  鼻の前に指をさされる。  レヴィンは「もちろんだ」と言いながら、こき使っている自覚はあったんだなと思った。

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