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第72話 『幕間』

 リウが語った過去に、レヴィンは真一文字に口を結んだ。拳を握って、目を伏せた。  宮廷の庭で語り合い、笑い合っていたその裏側にあるリウの想いには気づかなかった。  リウは話の中で「レヴィー様に恋してました」と言った。恥ずかしそうに笑いながら、懐かしむようにさらりと言った。  レヴィンは内心驚いていたが、リウの穏やかな顔を見ると、終わったことなんだな、と思った。  それよりも養父が手を出していたことに怒りを覚えた。  リウが消えたとき、養父は「なぜ出ていったのか、わからない。心当たりがない」と言っていた。あれは嘘だったのだ。レヴィンはそれを信じることしかできなかった。  リウの置手紙を見せてもらったが、 『この街を出ます。今までありがとうございました』  とだけ書かれていた。  養父に性的嫌がらせを受けていたことを書かなかったのは、拾ってもらった恩があったからなのかもしれない。 「とても、つらかったんだな……」  レヴィンは声を絞り出した。  それ以上、掛ける言葉を見つけられなかった。  養父のことだけでなく、自分を慕ってくれていたことが重なってリウは姿を消したのだ。  レヴィンが言葉を失くしていると、 「昔のことですから、気になさらないでください」 と、リウは微笑んだ。緩んだ目元を見て、クオンに似ている、と思った。  ぽつぽつと雨の雫が窓に浮いている。外は鈍色をしていた。    レヴィンは顔を上げた。 「この街には三人で来たんだな」  レヴィンが確認すると、リウはうなずいた。  クオンの父親が体を壊したので、旅を止めたのだと言った。この話はレヴィンもクオンから聞いていた。そのとき、リウのことはきれいに隠されていた。 「いま、どこに住んでいるんだ?」 「サイスという村で、ロッドと一緒に暮らしてます」  レヴィンは驚いた。 「ロッドと? じゃあ、ロッドの恋人というのは、リウのことなのか?」  リウは照れながら「はい」と言った。 「だが、クオンは……」  レヴィンはハッとして、慌てて口をつぐんだ。  —クオンは、ロッドのことが好きなのに    思わず口走りそうになった。レヴィンが視線をそらすと、リウは静かな声で言った。 「クオンの気持ち、知ってるんですね」 「!」  見ると、黒い瞳が切なく揺れた。  リウは知っている。知っていて、ロッドと一緒に暮らしているのか。  レヴィンはまた言葉を失った。クオンの切なさを我が身のように感じた。  唇を噛み、レヴィンは別の質問をした。 「リウは俺がここにいることをいつ知ったんだ?」  すると、リウの顔が曇った。 「実は、先週なんです」  リウはまた話し出した。

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