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第84話 『夢うつつ』

 薬水を作り、クオンは熱を出して眠り続けるレヴィンを平手打ちして起こした。  うっすらと目を開けるが視点が定まらない。朦朧(もうろう)としているところをグラハムがベッドに上がって体を支え、モーリスが口を開けさせ、クオンが薬水を流し込んだ。  飲み込んでくれるかが懸念としてあったが、レヴィンは嚥下(えんげ)した。  三人がほうっと息をついていると、また眠ってしまった。    あれからどれくらい経っただろうか。    部屋にはベッドに横たわるレヴィンとその脇で見守るクオンだけがいた。    夜も更け、モーリスとグラハムは別室で休んでいる。  レヴィンの様子は交代で見ることになり、まずはクオンが買って出た。    燭台の火に照らされた彼の顔色は変わっていない。時折、胸に耳を当てたが、心音は弱いままだった。    二人には大丈夫だと言ったものの、時間が経つにつれ、不安が押し寄せてきた。    幽延草でも解毒できなかったとしたら、どうすればよいのか。    毒を盛ったと思われるエリゼ=スタンフォードの元へ行くしかないのか。    そもそも、幽延草の効果はいつ表れるのか……?    初めてのことに、なにもかもわからなかった。  効いてくれ、とクオンは祈った。  レヴィンを失う恐怖で圧し潰されそうだった。    声が聴きたい。早く目を覚ましてほしい。    小さな変化も見逃さないように、クオンはレヴィンを見つめ続けた。    そして、クオンが何度目かの心音を確認したとき、レヴィンが身じろぎした。 (動いた!)  クオンが体を乗り出すと、レヴィンはうっすらと目を開けた。 「レヴィン!」  呼びかけると、小さく口を動かした。 「ク、オ、ン……?」  クオンはレヴィンの手を取った。 「俺だよ! どうした? 苦しくないか?」  レヴィンは揺れ動く瞳でクオンを捉えると(かす)れた声で言った。 「クオン……もう、好き、なんて、言わない……だから……そばに……」    途切れがちの切ない願いに、クオンは胸を打たれた。瞼にじわりと涙が溜まる。 「レヴィン、あのときはごめんな。俺もレヴィンが好きだよ。だから元気になって、もう一度、好きだって言ってくれ」  力のない手を強く握ると、レヴィンはかすかに笑って目を閉じた。その目尻から一筋の涙が伝う。 「夢……かな……」  クオンはどきっとした。嫌な焦りが湧き、叫んだ。 「レヴィン、夢じゃない! 夢じゃないんだ! だから死ぬなっ!」  クオンは涙を流しながらベッドに半身を乗せた。  レヴィンの頬を両手で包み、顔を近づける。    夢なんかじゃないと伝えたくて、クオンは自分の唇を彼の唇に押し付けた。

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