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第85話 『目覚め』

 レヴィンが目を覚ましたとき、そばにいたのは医師のグラハムだった。    重く気怠(けだ)い上体を起こすと、気分はどうか、どこか違和感はないかと訊かれた。 特に変わったところはなかったが、大量に汗をかいていた。  汗で服が張り付いて気持ち悪かったので、上衣を脱ぐ。    グラハムはレヴィンが意識を失ってから丸二日経っていると言った。ずっと熱を出していたらしい。  眠り続けて一昼夜が過ぎ、今朝方、熱が下がったのだそうだ。    レヴィンの記憶は二日前、毒を盛られたと思い、食事を吐き出したところまでだった。  今は拍子抜けするくらい、けろりとしていた。毒は完全に抜けたのだろう。  グラハムは枕元の小机に置かれた水をコップに注ぎ、レヴィンに渡した。    唇が乾燥し、喉もカラカラに乾いていたので一気に飲み干した。  そばで見ていたグラハムが目を細め、「クオンくんを呼んで来ますね」と言ったので、空のコップを落とした。 「クオンがいるのか⁉」  にこやかにうなずいて、部屋を出て行く。  レヴィンはグラハムの後ろ姿に「待ってくれ、心の準備ができていない!」と叫びそうになった。  なぜクオンがここにいるのか。  頭が混乱し、うろたえながら布団に転がったカップを小机に置いた。    クオンはすぐにやってきた。三か月ぶりだ。少し痩せたように見える。    どんな顔をしていいのかわからず、ひと声も出せなかったが、気にせずクオンは近寄ってきた。  そして、いきなりレヴィンの胸に顔をうずめてきた。 「ク、クオン……っ⁉」  素肌に横顔がぴったりとくっついている。心臓がバクバクと大騒ぎし、顔が熱くなった。  クオンは胸から顔を離すと笑って言った。 「うん。心音も大丈夫だな」 「⁉ ⁉」  なにが大丈夫なのかさっぱりわからない。クオンが離れると、いつのまにやら入室していたモーリスが着替えを渡してくれた。 「本当にようございました」 と、皺を寄せて笑っていた。服に腕を通すと、グラハムがモーリスに向かい合った。 「では、私は帰るよ」 「グラハム、ありがとうございました」 「私は何もしてないよ。お礼ならクオンくんに」  すると、クオンは頭を振った。 「何言ってるんですか。先生が幽延草のことを言ってくれたから、モーリスさんが気づいてくれたんです。俺だけだったら、幽延草のことは口にしなかった。先生のおかげです」  謙遜しあう二人に、レヴィンは他人事のように言った。 「もしかして、俺はかなり危なかったのか?」  三人は勢いよくレヴィンに顔を向け、真顔で大きくうなずいた。

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