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第88話 『甘い夜』★

 唇を押し付けるだけのキスだったので、クオンはレヴィンの下唇を舐めてみた。  応えるように舌が入ってきたが、舌先を軽く絡めただけで、唇が離れていった。    何を思ったのか、レヴィンはクオンを置いて、ひとり奥にあるベッドに向かった。  腰かけて、軽く両手を広げる。  ベッドに行くか、部屋を出るか。選べということらしい。    イラついたクオンは迷わずレヴィンのところに行き、押し倒した。 「帰ると思ったのかよ」  馬乗りになって見下ろすと「返事をもらっていない」と言われた。  キスを拒まなかったのだから、返事も何もないだろうと思ったが、譲れないらしい。  じっと目をそらさずに待ち続けている。  クオンは根負けした気分で「好きだよ」と囁いた。  レヴィンは幸せそうに笑うと、クオンの頭を撫で、再び口づけた。  片手が服の中に入り、背中をなぞる。  絡められる舌と体を這う手に心地よさを感じていると、いつの間にか転がされていた。  覆い被さられ、首筋に口づけてくる。 「俺がこっちか……」  ため息交じりにつぶやくと、レヴィンが半身を起こした。 「嫌か?」  真顔で問われ、クオンはちょっと黙ってから答えた。 「俺、実はおまえより年上なんだ」 「知っている。リウに聞いた。だからなんだ?」  あっさり言われ、クオンは口を尖らせた。 「……年上の威厳が」    嫌じゃない、と素直に言えなくて、よくわからない理由を口にする。  レヴィンは口端だけで笑った。 「昼はクオンの言うことを聞いてきたのだから、夜はいいだろう?」  クオンは眉を寄せ、ぷいと横を向いた。  ふ、とレヴィンは笑った。横たわるクオンに顔を近づける。  首筋を舐められ、胸を舌と指先で捏ねられると、ぴくっと腰が反応した。  レヴィンは硬くなり始めた昂ぶりを手で包むように触った。優しく扱かれ、吐息が短くなる。 「……ふ……っふ……」  押し寄せてくる快感に伸ばしていた片足をひいた。レヴィンの手が速くなると、 「……んッ」  クオンは容易く達してしまい、肩で大きく息をした。  脱力していると、レヴィンの視線を強く感じた。目を向けようとしたら、(まく)られていた衣服を脱がされた。  レヴィンはクオンに跨ったまま、服を脱いだ。  見下ろしてくる瞳には欲情の色がはらんでいて、クオンはぞくっとした。  レヴィンはおもむろに枕元の机に手を伸ばした。小さな瓶の(ふた)を開け、中身を掌に出している。 「それ、なんだ?」  訊くとレヴィンは手に塗りながら答えた。 「香油だ」  クオンは赤らんだ。 「なんでそんなものが枕元にあるんだ」 「知らない。置いてあった」 「知らないって、おまえ以外に誰が置くんだよ!」  決めつけると、レヴィンは心外だという顔をした。 「だから、俺ではない。察しのいい者が置いてくれたんだろう」  誰だと考えたら、すぐに思い当たった。  モーリスだ。彼しかいない。どこまで有能な家令なのだろうか。  クオンは両手で顔を覆った。 「明日、どんな顔すればいいんだよ……」  羞恥で嘆いていると、 「!」  前触れもなくレヴィンが秘部に指を入れてきた。  初めて内壁を触られた。緊張で凝り固まったが、レヴィンは解すように指を動かし、押し開いていく。  くち、と濡れた艶めかしい音が聞こえ、クオンはギュッと目を閉じた。  意識がレヴィンの指にいく。またひとつ、指が押し入ってきた。  捏ねるように抽挿され続けていると、徐々に体がなじみ始めた。  時折、快感が背中を走り、その都度クオンはぴくりと動いた。  クオンの小さな反応をレヴィンは見逃さず、感じたところをしつこく責めていた。  クオンの呼吸が浅くなっていく。一度果てた芯もまた起き上がっていた。  微弱な快感に身を任せていると、不意に指を抜かれた。 (気持ちよかったのに……)  (とろ)けた顔でレヴィンを見やると、彼が喉を鳴らしたのがわかった。  誰もが目を奪われる端整な彼が、自分の体に興奮していることに眩暈(めまい)がした。  クオンがねだるように少し体を開くと、レヴィンは軽くキスをした。  そして、ゆっくりと押し入ってきた。 「……ッ!」    十分に慣らされたはずだったが、レヴィンの質感は想像以上だった。  きつくて耐えていると、なだめるように前を握られた。 「……あッ」  侵されていく痛みと扱かれる快感が同時にきて、たまらず声が出た。  漏らしてしまった声が恥ずかしくて、クオンは片腕で顔を隠した。  レヴィンは緩やかに腰を動かし、前も撫で上げる。 「ッ……ッ……!」  馴染ませるように揺すられていると、痛みがあったのも最初のうちだけで、後孔が悦楽を覚え始めた。  前を(しご)かれる快感もあって、声が出そうになるのを必死で抑えた。  クオンはぐっと下唇を噛んだ。  また達してしまう、と思った。  ところが、寸前でレヴィンは急に体を離した。  馴染んでいた熱が遠のき、寂しさを感じる。  クオンは隠していた顔を覗かせた。 「……どうした……?」  掠れ出た声にレヴィンは真顔で言った。 「今日はもうやめよう」  クオンは眉根を寄せた。レヴィンの体はまだ熱を持ったまま、収まっていない。 「なんで……?」  不満げに訊くと、労わるように頬を撫でられた。 「つらそうだ。無理をさせたいわけじゃない」  唇を噛んでいたので痛みを堪えていると思ったらしい。  慈愛に満ちた目を見て、クオンは怒ったように言った。 「つらかったんじゃない。……気持ちよかったんだ!」  思わず横を向く。 「途中でやめるから、イキそこなっただろ……!」  恥ずかしくて、また腕で顔を隠した。  しんとした空気が流れる。  クオンは、何か言ってくれ、と思った。  すると、レヴィンはクオンが隠した腕を外し、背けた顔を自分の方に向けた。 「よかったんだな?」  あごを掴まれたまま小さくうなずくと、レヴィンは急に乱暴な手つきでクオンの体を大きく開いた。  あ、と思ったときには、昂ったものを一気に押し込まれた。 「んッ‼」  一度レヴィンを受け入れた体は、容易に奥まで許した。  たがが外れたようにレヴィンは何度も突きあげた。  熱い息遣いと情欲に塗れた美しい顔にクオンも大いに煽られる。 「あッ……あ……!」  緩やかに与えられていた快感とは違う、強烈な快感に我慢できずに嬌声を上げると、さらに動きが激しくなった。 「ああっ!……あッ……レヴィ……レヴィ……ッ」 「クオン……ッ!」  ほとばしる快感にシーツを強く握ったとき、レヴィンが息を詰めてクオンの中で達した。  どくっと震えた身体に、クオンもまたレヴィンの熱を感じながら、共に果てた。

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