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第13話

「…お帰り」 「うわ…っ!!」 寮の部屋をそーっと開けた途端、彰の声がして心臓が飛び跳ねる位、驚いた。 だけじゃなく、本当に5センチ位、飛び跳ねた…と思う。 本当に、驚いた。 「…あ…ごめん、そんなに驚かせた?」 俺の驚いた姿に彰も吃驚したのか、目を見開いて俺を見ている。 「…あ、いや、別に、うん…大丈夫」 何が大丈夫なのか自分でも分からないまま、そんな返事を返してしまう。 心を落ち着かせて部屋の中へ入ったはずなのに、思いっ切りヘドモドしてしまい、挙動不審な言動に、挙動不審な行動。 自分でも怪しいと思ってしまう。 「……どうだった?良かった?」 彰の言葉に、俺と治朗の事がバレたのかと思い、またしても心臓が跳ねた。 「…えっ!?…な、何が?」 しまった…声が裏返ってしまった……。 「…あれ、映画を見に行ったんじゃなかった?違うの?」 「…あっ!!…そう…映画…。うん…映画ね…うん。違わない。うん…映画へ行ったよ…うん。良かった。うん、良かったよ」 …ああ、また声が裏返ってしまったし、どうみても挙動不審だ…。 これじゃ、絶対、彰に怪しまれる。 そう思った。 だが。 「…あ、そうなんだ…?良かったね。楽しみにしてたもんね…ご飯、食べて来たんでしょ?」 彰は俺の態度がおかしい事に気づいてないのか…いつもと変わらぬ態度。 「…え?あ、いや…」 それ程、俺を信用しているのか………。 信用されて嬉しいような………寂しいような……少しは嫉妬してほしいような……その信頼を裏切ってしまった罪悪感で胸が痛い………。 「…食べてないの?…あれ、晩御飯いらないって申請してたでしょ?映画見たらすぐ帰ってくるって言ってたのにおかしいなと思ってたんだよ。あれ、でも、じゃ、ご飯食べてないなら映画、終わって何していたの?こんな時間まで…」 「…あっ!!いやっ!食べた。うん、食べたんだった。ご飯。うん、そうだった。忘れてた」 (…あ、そうか…晩御飯、寮で食べないんなら申請しないといけないんだっけ。そんな事、忘れてたし…そんな申請、俺はしていないし…) …たぶん、治朗だろう。 用意周到なヤツだ。 はなっから映画だけで終わる気はなかったって事かよ。 晩御飯は食べた。 治朗と一緒に。 ホテルの部屋で。 ピザを頼んで。 あの事は彰に知られるわけにはいかない。 そう思って。 だから、つい、知られたくなくて一瞬、彰の問いに首を横に振ってしまったけど。 そうか。 治朗は晩飯ナシの申請をしていたんだ。 俺の分まで。 という事は。 アイツ。 最初からホテルに行くつもりで………。 なんてヤツだ。 それにまんまとのせられた俺は………。 ………なんて間抜けなんだ………。 罪悪感で彰の顔がまともに見られない。

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