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第14話
「……僕、浴場へ行ってくるけど、樹生は?行かない?」
「…えっ!?浴場!?…い、いや…俺はいい…俺、今日は疲れたから部屋のシャワーだけ浴びて、もう寝る」
着替えを手にした彰が俺を振り返り聞いてきた言葉に、ギクリとした俺は慌てて両手を振り、ついでに首も左右に振る。
(…大浴場なんて、絶対、無理無理。彰と一緒になんて入れるわけないじゃん)
裸になったら、治朗との情事がバレる!!
「そう?でも、疲れているなら大浴場でゆっくり身体を伸ばしたらいいのに…ま、いいや。じゃ、僕、行って来るね」
彰の何気ない言葉にギクギクしっぱなしの俺。
「…あ、うん。分かっ…」
(……ってもう、いないし………)
振り返ると、彰の姿が見えなくなっている事にホッとする俺。
…彰がいなくなって気が弛んだら…一気に身体中の痛みがぶり返していた。
でも、ここで休んでもいられない。
彰に治朗との事がバレる訳にはいかない。
絶対に。
治朗との事は隠すんだ。
「…シャワー、浴びとかないと…」
(各部屋にシャワー室があって良かった…)
あちこち痛む身体を動かし、服を脱ぐと部屋に備え付けのシャワー室に入る。
シャワー室のカーテンを開けると、そこには大きな姿見鏡が有り…そこに俺の姿が写っている。
俺は鏡に写っている自分の姿から目を逸らして、シャワーの水を浴びせる。
今の自分の姿は見たくない。
そこには治朗にいいように翻弄された、情けない姿が写っているから。
治朗に身体中に付けられた、キスマークや…噛み跡や…叩かれた跡や…。
もう、思い出したくもない!!
「………くそっ!!」
俺はシャワーの水を頭から浴びながら、目を瞑った。
(…くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!)
ボディソープで何度も、何度も、何度も乱暴に身体を洗う。
(…気持ち悪い…)
…まだ治朗の手の感触や、唇の感触が身体に残っているような気がする。
-汚い………。
(汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚汚い)
あまりに強く擦りすぎて身体中が痛くなるのも、赤くなるのも構わず擦った。
-汚れが落ちてない気がして。
治朗が触れてきた場所、治朗がキスしてきた場所、治朗が咬んだ場所。
そして、治朗のモノが入ってきた場所は特に念入りに。
ひりひりと痛むのも構わず、何度も、何度も、何度も………。
(くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!)
冷たいシャワーの水を浴びる。
冷水を浴び、身体中を擦りながら俺はいつの間にか涙を流して泣いていた。
(…治朗のヤツ…絶対、許さねぇ…!!)
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