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第19話

-治朗の声が聞こえる。 『樹生は、もうオレの女だね』 (ふざけるな) 『初めてであんなに感じちゃって後ろだけでイッちゃうんだもんな~。吃驚しちゃったよ。でも、素質ありありだね』 (…絶対、許さねぇ) 『樹生じゃなくて今度からは樹子ちゃんって呼んじゃおうかな~』 両手で机を叩いて、俺は叫んだ。 「…うるせぇっ!!」 「…うわっ!?………何?」 寮の中。 食後から就寝時間までのまったりしたひととき。 いきなり机を叩いて大声を出してしまった俺を、ベッドの中で本を読んでいた彰は吃驚して見ている。 「…あ…ごめん、何でもない」 「…大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫…あ、俺、珈琲を買ってくる…彰は?いる?」 「……僕はいらないけど…大丈夫?僕が買ってこようか?」 心配そうな顔をして俺を見る彰。 (…彰……なんて優しいんだ…そんな彰を俺は…) 裏切ってしまった………。 彰の顔をまともに見る事ができない。 …胸が痛む。 「…いや、いい。少し…用事もあるし……」 「そう?…気をつけて」 -気をつけての言葉にギクリとする。 何か気付いているのかと……横目で彰の様子をうかがうが、言葉に他意はなかったらしい彰は、本に視線を戻している。 「ハハ…寮の中だし、大丈夫だよ」 渇いた笑いを残し、廊下に出た俺は部屋の扉にもたれて溜息を吐いた。 -あの日から彰は俺の様子がおかしい事には気付いているみたいだが……原因には思い至らないらしい。 そりゃそうだろう。 俺と治朗が……………なんて。 想像もしないだろう。 ましてや、俺が治朗に……………なんて。 (……………駄目だ……………) 彰とふたりでいると罪悪感に押しつぶされそうになる。 彰に信用されていると思うと、余計に苦しい。 こんな事、初めてだ。 (彰とふたりでいるのに、気まずいなんて……) それもこれも全て。 (治朗のせいだ………) 夕食の時間が終わった後で各自、部屋の中で休んでいるのか…消灯の時間まではまだ時間があるのに、廊下に人影はない。 部屋から話し声さえ漏れてこない。 (………どうしたんだろう………?) いつもはうるさいほどなのに。 俺は1階に降りてトイレの横にある自販機の前で止まり、小銭を取り出そうとポケットに手を入れて…。 「…………あ」 お金を部屋に忘れてきた事に気がついた。 「…いけね」 珈琲を買うなんて彰とふたりきりの部屋から逃げる口実だったけど、いちようふりだけでも珈琲を買っていかないと、本当に彰に怪しまれる。 それだけは避けたい。 「……しようがないな」 小銭を取りに部屋へ引き返そうと踵を返す。 その時。 背後から誰かに口を塞がれ、自販機の横にあるトイレの中ヘと引きずり込まれる。 (……………誰!?)

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