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どうして(私)

ギリルの舌は、いつの間にこんなに大きくなっていたのでしょうか。 私が攫って来た頃は、まだ少し舌っ足らずで、『せんせい』が『てんてー』にしか聞こえなかったのに。 いつの間にか『せんせい』とハッキリ呼ぶようになって。 今では、私の口の中にいっぱい、で……。 ギリルの熱い舌が私の口内を満たすと、私の思考は急に曖昧になってしまいました。 ゆっくりと私の内を撫でる動きに、くすぐったいような感覚と震えるような快感が混ざり合います。 「……っ、ん……」 僅かに離れたギリルの唇が、また角度を変えて私を襲いました。 ギリルの熱い息が顔にかかるとつられるように体温が上がってしまいます。 「っ、……、んん……っ」 何度も何度も深く口付けられて口内を撫で回されるたび、ゾクゾクと背筋を熱がのぼり、曖昧な思考すら霧散してゆきました。 「せんせ……」 合間に、ギリルが私を呼んでいます。 どこか遠くに感じるその声は、途切れ途切れになりつつも、繰り返し私を呼んでいました。 「……ギリル?」 あまりに近いその頬を撫でると、私の指に涙が触れました。 「泣いているのですか……?」 「……俺は……」 ギリルは新緑の瞳を戸惑いと悲しみに染めていました。 「俺は……、師範の願いを叶えたいと……思って……っ」 彼は歯を食いしばり、それでも一筋溢れた涙を、ぐいと手の甲で拭いました。 ……そうですよね。あなたはここまで、それだけを目標に努力してくれました。 私を喜ばせたいと。いつもそう願っていてくれました。 その思いを私はずっと利用していたのです……。 「でも、師範の願いが本当に『そう』なら。俺は……」 ゆら。と空気が変わる気配に、私は俯きかけていた顔を上げました。 ギリルは私の肩を両手でしっかり包み、私を真っ直ぐ見つめました。 「俺には、師範のその願いは叶えられない」 「ぇ………………?」 私には、ギリルが何と言ったのか一瞬理解できませんでした。 だって今までギリルは私の頼みを断った事などなかったのです。 だからでしょうか。彼はきっと、思い悩み、苦しみはしても、最後は私の願いを叶えてくれると、そう思い込んでいたようです。 すうっと彼が深く息を吸い込み背筋を伸ばします。 すると、彼を中心に部屋中の空気が浄化され始めました。私が血を流したために闇が色濃く渦巻いていた室内は、見る間に清らかで透明な空間へと姿を変えます。 ギリルはそんな事、気付いてもいないのでしょう。 ただまっすぐな眼差しで、私を見つめていました。 「俺は師範を守りたい。師範に、ずっと笑っていてほしい。そのためならなんだってやるから」 「ギリル……」 ギリルの、命を凝縮したような新緑の瞳が鮮やかに煌めいています。 赤い炎のような髪が彼の想いを浴びて揺れる姿は、私に彼が真に勇ある者なのだと教えているようでした。 「だから師範……、教えてほしい。どうして師範は死にたいと思うんだ」 「ぇ……。……どう、して……?」 だって、私は魔王と呼ばれるうちの一人だから。 私は人をたくさん殺してしまうから。 世のため人のため、私は滅ぶべき存在だから。 ……だから――。

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