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師範の、大事な人(俺)

俺は自分の知る限りの情報を師範に話した。 師範は俺の話を最後まで聞くと「確かめたいことがあります」と言った。 師範の話によると、以前師範が世話になった東の魔王とやらの魔力が、急に途切れたきりらしい。 話を聞いてて分かったのは、どうやら『東の魔王』ってのは、あの日師範を泣かせた奴だって事だ。 しかも、その後、東の国境近くの村まで俺と師範の初めての遠出をしたのに、ワクワクの俺と正反対に師範がずっと浮かない顔してたのも、全部そいつのせいだったってわけだ。 「彼が今どうしているのか、もう一度確かめに行かせてください」 そう言う師範の真剣な表情に、俺は心がざわついた。 「分かった。俺も一緒に行く」 「え? いえ。ギリルは今回の討伐を行ってから何処かで合流していただければ……」 つまり、師範にとっちゃそっちの方が大事だから、今回の討伐は俺たちだけで行けってことか? 確かに依頼内容としちゃ、俺たち三人で十分かも知れねーけどさ……。 「俺も絶対、一緒に行く」 胸に湧く感情を握りつぶして、俺はもう一度ハッキリと言う。 師範は少し驚いた顔をして、それから「わかりました」と苦笑した。 東の魔王ってのがどんな奴だか知らねーけど、師範がそいつを慕ってんのは間違いない。 師範の話には「昔お世話になった方」ってのが時々出てくるんだが、それはどうも一人を指してるっぽいんだよな。 確か長い黒髪で、今の俺と同じくらいの背丈だっつってたよな……。 あいつの話をする時、師範はいつも闇色の瞳でどこか遠くを見つめる。 そして、優しい顔で笑うんだ。 俺にとっちゃ『魔王消失の真実』よりも『師範の大事な奴』って意味で、東の魔王が気になってしょうがないってのに。そんな奴を、師範と二人っきりになんてさせてたまるか。 思わず、握った拳に力がこもる。途端、師範がびくりと肩を揺らした。 「っ……! ギリル……?」 俺はハッとして師範の身体を注視する。 外はまだザーザーと雨が降り続いていて、薄暗い教会には暖炉の灯りがひとつきりだ。 ゆらゆらと揺れる炎が、師範の身体を橙色に染めている。 炎の色が師範の肌の色を隠すから、俺のせいで師範が傷ついたのか、俺には見分けられなかった。 「ごめん師範。本当に、……ごめん。痛かったろ?」 「少し、ビリッとしただけです」 「ごめん……」 俺は、師範の身体をできる限り優しく抱きしめる。 俺が師範を膝に乗せといて、俺の気に当ててしまうなんて……。 情けない自分に腹が立つ。 「そんなに気にしないでください。私もよくやるでしょう? お互い様ですから」 クスクスと楽しそうに師範が笑ってくれる。 俺を安心させるために。 本当に、ごめんな……。 もっとしっかり制御できるようになんねーと。 最中に師範を傷つけたりなんて、絶対したくない。 「ですが、ギリルらしくないですね。どうしたんですか?」 どうって、そんなの……。 勝手にヤキモチ妬いてたなんて、言えるわけねーだろ。 俺が黙っていると、師範がごそりと俺の腕の中で向きを変える。 俺の胸元に来ていた師範の背中は俺の腕の方へ。 師範は俺の腕に背を預けると、横抱きのような姿勢で上目遣いに見上げてきた。 ふ。と小さく微笑んだ師範は、揺れる炎に照らされて一層美しい。 「もしかして……、妬いてくれたんですか?」 「っ……!!」 こんなの、反則だろ!?

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