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◎約束
昼になっても部屋から出てくる様子のない後輩に、わざわざ様子を見に行けば、後輩は一言も発さず俺を睨んできた。
昨夜はあんなに可愛かったのにな。
……まあ、仕方ねぇか。
俺は溜息をのみこんで、尋ねる。
「……まだ死にたいか?」と。大事なのはそこだ。
こいつの希死念慮さえ払えてれば、俺はまあ別に、嫌われたって……。
不意に、マルクスが顔を真っ赤にする。
ん?
ああ、俺の顔見て、昨日の失態を恥じてるわけだ?
相変わらず真面目な奴だな。
「……き」
「ん?」
掠れるような、振り絞るような声を聞き返す。
まあ昨夜あれだけ叫べば、声も枯れるか。
流石に昨夜のは……隣にも聞こえてた、よな、多分……。
嫌な汗をかきつつ、俺はそれに気付かなかったフリをする。
「昨日の、事……」
マルクスは俯いて、俺の顔を見ないまま、言葉を紡いだ。
「安心しろ。お前にもう死ぬ気がなけりゃ、あんな事二度としねぇよ」
俺の言葉に、俯いていた後輩はハッと顔を上げた。
その表情がやけに寂しそうで、俺は内心驚く。
「……じゃあ……、俺が、まだ死ぬ気だったら……どう、するんですか……」
後輩は、今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げて尋ねた。
なんだよ、それは。
俺を、誘ってんのか……?
まだ赤みの引ききらない頬と潤みかけた榛色の瞳が、昨夜と同じ部屋で、同じように俺に縋っている。
「今夜も来てやるよ」
……夜に一人でいる時が、一番死にたくなんだろ。
俺は、胸にチラつく幼い俺の影を無視して、はっきり答える。
「……っ!」
後輩は小さく息を呑んで、また顔を赤くしただけで、『良い』とも『嫌だ』とも言う事はなかった。
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