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「タマさん、今週の土曜日にお伺いしてもいいですか?」
そして私とシノさんは公園で昼食を共にしている。あの出会いから、半年が流れた今。ふたりは週末、私の部屋で会うほどの仲になっていた。
「もちろん大丈夫ですよ。先週はすいません、用事があったもので」
母の休みを利用して、日曜日に墓参りをしたのだ。だからシノさんの来訪を断ったのだけれど、彼は嫌な顔一つしなかった。思えば、シノさんは会社員で、貴重な休みを毎週私に使っていることになる。それでいいのか、と時折、思う。
逆に言えば、私のために使ってくれているのだと考えると、どうも胸が苦しくなった。
「お気になさらず。また、おまんじゅうを買って行きますね。タマさんのカレー、楽しみにしてます」
シノさんはそう微笑んで、スマホを取り出し時間を確認すると「では、そろそろ」と立ち上がる。食事で出たゴミをレジ袋にしまって、彼は案外あっさりと公園を去って行った。
シノさんの左手首の腕時計が、太陽を反射してきらりと光っている。その背中を見送りながら、私は小さく溜息を吐いた。
土曜日。私たちは会う度に、身体を重ねているのだ。
その事を考えると、何も手に着かなくなる。ベンチに座り込んでいると、懐のポケットでスマートフォンが振動する。のろのろと取り出して画面を見ると、急激に私の心は冷え切っていった。
また、「あのメッセージ」だ。私はシノさんと過ごす時間の温かさを思い出さないように、目を閉じる。私には、やはりそんな資格は無いのだから。
スケッチブックの続きを描くため、ふるふると頭を横に振り邪念を追い出す。そうして再び、有るはずのものが失われた公園を映し出した。
いつものように、上手く心を無にできていたはずだ。私には絵を描くことしかできないのだから。ただ、描くしかない。そうすることで初めて、まだ生きていてもいいのかもしれないと思える。
ひどく冷めきった世界に、私はいる。
なのに、胸ばかりが、少し熱い。
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