1 / 4

File.0-1 食べたのは誰だ!

静かな午後の時間。僕の仕事場は都会のビルの一角。 意外と小綺麗なこのビルの最上階。 いつものようにお気に入りの黒のソファーに身体を預けて読書をしていた僕の耳に、静寂を打ち破る悲鳴が飛び込んできた。 「俺の……俺の大事なおやつが足りないっ! ないっ! なぁーいっ!」 この声はルインだ。彼は狼獣人で白い狼耳と白の尻尾を生やしている。真っ白な髪もポニーテールのように括られているせいか、尻尾のようにふさふさしている。それ以外、見た目は人間とあまり大差がない。不満げな金の瞳が怒りと悲しみに溢れていて、ある意味いつもの通り元気だ。いつも活動的な服装だし、その方が動きやすいと本人もよく言っている。この部屋の中では一番力が強いのはルインだ。 「煩い。お前のプリンなんて知らない」 この声はシャル。顔を覆う程に長い緑の髪のせいで表情が分かりづらいが、僕の前では微笑んでくれる。ルインとの相性は悪いので二人が同じ室内にいると大抵小さな小競り合いをしている。シャルは蛇族の出身で肌色も青白く顔色も悪く見える。本人は身体の一部に鱗があることを気にして、いつもオシャレだけれど身体を隠すような袖の長い服をよく着ている。寡黙で落ち着いているのがシャルの印象だ。 「なぁ、ハス? ハスは俺のおやつ食べてないよな?」 「食べていないよ。僕は僕のおやつを用意しているし、もしルインのおやつをわけてもらうとしたら、おやつを分けて、と声をかけるよ」 「……馬鹿」 シャルがまた煽るので、ルインがギャーギャーと騒ぐ。こうなってしまうと、暫くは二人でやりあってしまうので読書どころではない。僕も仕方なく本を閉じてソファーへと置いて二人を改めて見る。 「ルイン、シャル。二人とも落ち着いて。今までの話で少し不自然なところがあったのに気づいたでしょう?」 「え? 何だよ。俺にも分かりやすく言ってくれないと分かんないって」 「うん。教えて?」 二人ともこちらに注目するので、僕はかけていた銀縁の眼鏡を外して二人に優しく微笑みかけた。 「では、事件を振り返って見ましょう。ルイン、ルインはおやつを冷蔵庫に入れたと言っていたけれど、それは何時くらいだったのかな?」 「店が開いて朝イチで買って、んで、帰ってきて、冷蔵庫に入れて冷やしてから食べようと思ってた」 「どうしてすぐに食べなかったのかな?」 「それは、筋トレしようと思ってさ! トレーニングしてからの方が旨いだろ?」 すぐに食べない理由は実にルインらしい。僕も思わず笑う。ルインは気にした様子もなく、目をキラキラとさせている。大きいルインが腰を折って僕を見つめていると、狼ではなくて大きな犬のような気がして、可愛らしく見える。 「それで、その後トレーニングをしたのなら冷蔵庫があるキッチンから離れるし、ルインはいつおやつがなくなったのか分からない訳だね。じゃあ、今までシャルは何をしていたの?」 「別に……朝から部屋にいた。で、今はココにいる」 「じゃあ、朝から今までのアリバイはないよね。そして僕。僕もこの部屋で朝からずっと今まで読書をしていた。その間、誰かが通る気配は感じたけれど、誰という確認はしていない。そして、僕も一人でいる時間があるから、完全にシロにはならないね」 苦笑しながら順序を追って説明していく。 今は三人この部屋にいて、他に人はいない。つまり、このうちの誰かが犯人だということになる。

ともだちにシェアしよう!