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「これは……」
「この間、デリヘルを待っていたらたまたま君たちが二人して此処に入っていくところを見かけたんだ」
「あ、雨宿りを……していただけです。土砂降りだったので……」
「ふぅん? 駅の軒下ではダメだったのか? それに、目と鼻の先にコンビニもあったじゃないか」
「それは――ッ」
言い淀む理人に、本田が畳みかける。
「まさか、雨でコンビニに気付かなかったわけじゃないだろう? いくら土砂降りでも普通なら、少しぐらいは外に目が行く筈だ」
全て見透かすような目で、理人を射抜く。全身を舐めるような視線が気持ち悪くて仕方がない。
「何もなかった。とは、言わせないよ? 実は以前から気になることがいくつかあってね……写真はこれだけでは無いんだ」
「……くっ」
見るか? と言われて首を振る。これ以上コイツに弱味を握られるのだけは御免だった。
悔しさに歯噛みしながら、理人はキッと本田を睨んだ。
だが、相手は怯んだ様子もなく余裕たっぷりに微笑んでいる。
「おぉ、怖い……。まぁ、そんなに睨むな。しっかしまぁ……生徒会長と学年トップがねぇ……。上に知れたら停学くらいじゃ済まないんじゃないかな」
ニヤついた顔でそう言われ、カッと頭に血が上った。
「……何が言いたい」
「いやいや、私はただ忠告しているだけだよ。このことが君の親御さんに知れたら……悲しむだろうなぁ? 君のお父さん大手製薬会社の重役だろう? 加えて叔父さんは教育委員会のお偉いさんだと聞いている」
「っ、……親に言うつもりか!?」
「本来なら、不純交遊は罰せられるべきだ。それは君も知っているはずだが? それをしないのは、君が成績優秀で品行方正だからだ。私だって鬼じゃない。君のような優秀な生徒の経歴に傷つくのは忍びないんだよ」
口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりと理人の方へ近づいてくる。
「……近寄るな」
嫌悪感に顔を歪ませ、理人は椅子から立ち上がると本田から距離を取った。だが、狭い室内に逃げ場など無く、直ぐに壁際まで追い詰められてしまう。
ドンッと大きな音を立てて、本田が理人の両側に手をつく。
「賢い君ならわかるだろう? どうすればいいか……」
耳元で囁かれ、ゾクリと背筋が粟立った。気持ち悪くて吐き気が込み上げてくる。
「君が大人しく言う事を聞くなら、私はこの件を不問にしようと思っているんだ。親にはバレたくないんだろう?」
卑しい笑みが視界いっぱいに広がる。
逃げられないとわかっていて、わざと追い詰めるような言動をしているのが気に食わない。
だが、この男に逆らう事は出来ない。それが、理人には悔しくて堪らなかった。
別に、蓮の事はこの際どうでもいい。親にだけは、どうしてもバレたくない。
両親に愛されていた記憶なんて無い。彼らが愛しているのは自分達の経歴と、息子の学校での成績だけだ。
男同士で淫行に及び、学校に呼び出されて停学。なんてことになったら――。
考えるだけでも恐ろしい。こんなこと、絶対に知られてはいけない。
「……っ」
理人は睨み付けるのを止めて、だらんと手を下ろした。
それを見て本田が満足げな卑しい表情を浮かべる。
「流石鬼塚君だ。物分かりが良くて助かるよ」
「うるせぇな。黙れよクソが」
「……言葉遣いが悪いのはいただけないが……まぁいい。取り敢えず、手始めに……そこに跪いて舐めて貰おうか」
「く……ッ」
屈辱的な命令に思わず唇を噛みしめる。
「嫌ならいいんだ。君のご両親と話をするだけだからね。私はどちらでも構わないよ?」
理人の反応を愉しむように、本田は更に追い打ちをかけてくる。
「チッ……下衆が……ッ」
悔しいがここで逆らうのは得策ではない。理人は諦めて、言われた通りに床に膝をついて目の前のズボンのチャックに手を掛けた。
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