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10-2
瀬名が出張へと出向いてから一週間が過ぎた。
最初のうちは毎晩電話が掛かって来ていたのに、ここ数日はメールすら届いていない。
思えばいつも連絡をくれるのは向こうからで、自分からアクションを取ったことなど数えるほどしかなかった。
偶には自分から電話でもしてみようか? いや、でも忙しいのかもしれないし……。
風呂から上がり、よく冷えたビール缶のプルトップを開けながら理人はスマホを片手に悶々としていた。
ようやくスマホのディスプレイに瀬名の名前を表示させたのはもう日付の変わる数分前だった。
流石に遅い時間だと躊躇ったが、瀬名の声を聞きたいと言う欲求には勝てなかった。
もし寝ていて気付かなかったと言うのならそれでいいし、そもそも瀬名だって時間関係なくかけて来るし、いいよな。
心の中で何度も言い訳をして、高鳴る鼓動に苦笑しながら震える手でボタンを押した。
ところが、中々コールに出る気配はない。 やはり寝てしまったのだろうか?
あと、数コールして出なかったら諦めて切ろう。そう思って唇を噛んだ瞬間、ふつりと呼び出し音が途切れた。
つい、緊張でスマホを握る手に力が入る。
『もしもーし?』
「……っ」
出たのは瀬名ではなく、明らかに女性の声。
もしかして、違う人と間違えたのだろうか? 慌ててディスプレイを確認するが、名前は間違っていない。
『……もしもし?』
『ねぇ誰―? 勝手に秀一の電話出ちゃまずくない?』
少し離れた場所から別の女の声が聞こえてくる。
どうやら間違いではないようだ。瀬名は今、誰かと一緒に居るらしい。
そして、その声色からは相手が親しい間柄であることを感じ取れた。
こんな夜更けに女と一緒に居るのか? 仕事の付き合いとかじゃなくて? 理人の胸の奥にじわりと黒い感情が広がる。
「……すみません、人違いでした」
『えっ、ちょっ――』
ブツッと一方的に通話を切ると、理人は苛立たしげに電源ボタンを長押しして強制的に回線を遮断し、スマホを机に放り投げるとそのままソファに倒れ込んだ。
クッションに顔を埋め、深い溜息を洩らす。
ここ数日、連絡してこなかったのはそう言う事だったのか。
そう思うと無性に腹が立って仕方がなかった。
「――、くそが……っ」
蓮と話していただけで、嫉妬して無茶苦茶に抱いてきたくせに、自分は女とよろしくやってるって言うわけか。
あの声と、あのルックスだ。アイツとヤりたがる女なんて腐るほどいるだろう。
そりゃそうだ。あんな奴、自分みたいな男よりも可愛い女の子の方が断然似合うに決まっている。
瀬名にとって自分が特別な存在だと思っていたわけではないが、それでもどこかで期待をしていたのだと思う。
アイツは俺に執着しているし、簡単に手離すつもりは無いのだろうと。
アイツは俺に執着しているし、簡単に手離すつもりは無いのだろうと。
けれど、それは自分の自惚れに過ぎなかったのだと、突きつけられた現実に酷く落胆し残っていたビール缶を一気に煽った。
あれだけ散々毎日愛してるだの好きだのと甘い言葉を囁いておいて、たった一週間で浮気とは良いご身分じゃないか。
簡単に女に乗り換えた事を考えれば結局、自分はただの性欲処理の相手だった。という事だろう。
酷い男だ。いい加減だと言うべきか。まさか、信用していた相手からパンチを喰らうとは思ってもみなかった。
じわりと滲んできた涙を腕に擦り付け、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸を繰り返した。
前後不覚になるくらい酔って何も考えられなくなれればどんなに楽だろう。
だが元々酒が強い上に、今はアルコールの味など全くしなかった。
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