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あれから更に数日が過ぎ、もう3月も半ば。早咲きの桜が蕾を付け始め、昼間はジャケットを脱いでも過ごせるほど暖かい日も多くなってきた。 夜はまだ冷えるが、この調子ならばすぐに暖かくなって春が来るのだろう。  あの日以降、瀬名とは一切連絡を絶っている。 何度か職場にも連絡があったようだがタイミングが合わなかった事もあり、理人は無視を決め込んでいた。  勿論、こちらから連絡する事もない。  代理で伝言を預かったと言う萩原の話では数日中に戻れそうだとの事だったが、理人はそれを聞いても特に何かを言うことはなかった。  瀬名の事は嫌いじゃない。むしろ好ましく思っている。  でも、だからと言ってアイツを許せるかと言えば話は別だ。  今までの態度や行動を思い返せば、きっと今回の件にもそれなりの理由があるに違いない。そう自分に言い聞かせながらも、理人は心の何処かで瀬名に裏切られたような気がしてならなかった。 「あー、ヤりたい……」  カウンターに突っ伏しながら、ウイスキーの入ったグラスを傾けながら理人はぼんやりと呟く。 「……瀬名君と?」 「そう、瀬名と――って! おいっ!」  ナオミの言葉に理人は勢いよく身を起こすと顔を真っ赤にして怒鳴った。すっかり油断していたせいでうっかり肯定してしまったではないか。 「あらやだ、冗談よ。そんなに怒らないで。それにしても、めちゃくちゃ引きずってるわね」 ナオミはニヤニヤ笑いながら理人を小突く。 理人はバツが悪そうに舌打ちすると再びグラスを傾けた。 「うっせーな……身体の相性が良かったんだ」 「顔も好みだし?」 「あぁ」 「まぁ、アンタが本気で瀬名君の事を好きじゃなかったら、そんなに悩んでないわよね」 「…………チッ」 図星をつかれて、理人は悔しそうに舌を打つ。不意っとそっぽを向いた理人を見て、ナオミは呆れたように肩をすくめた。 「はぁ……ったく、ほんっと素直じゃないんだから。気になるなら電話に出てあげればいいのに」 「……うるさい」 「何年一緒に居ても、そういう所は変わんないわね。アンタって」 「ほっとけよ。ばーか」  理人はふて腐れて再びテーブルに伏せると、グラスに残っていた酒をぐいと飲み干した。 「どうでもいいけど、明日は同窓会なんだから飲み過ぎないでよね。やけ酒飲んで2日酔いとかシャレにならないんだから」 「オカンみたいなこと言うなよケンジ」 「その名前では呼ばないでっていつも言ってるでしょ!」 「ふはっ、そうだったな。悪い」  理人は口元を緩めると小さく笑みを浮かべた。その表情は普段よりずっと幼く見えて、ナオミは不覚にもドキリとしてしまう。 「……アンタ、その顔は反則……っ、うっかりお持ち帰りしたくなるオッサンの気持ちがわかるわ」 「あん? 何言って――」 「理人さん!!!」  文句を言おうと身体を起こし掛けたその瞬間。突然、店の扉が勢いよく開いた。名前を呼ばれて振り向くと、そこにはスーツ姿の瀬名が立っていた。

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