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「……まだ何か?」 動揺を悟られぬよう努めて冷静に言葉を返すと、蓮がスッと目を細めた。 「さっき、僕を案内してくれた男が君の恋人だろ?」 「……だとしたら?」 「可愛い男連れて歩いてたぞ。仲良さげに腕まで組んで」 「……」 瀬名は人前ではベタベタしてくるタイプではない。一応、TPOはわきまえる方だ。だから、蓮が見たと言うそれは、恐らく藤田が勝手に腕を組んできたのだろう。 「あんな冴えない男、君の趣味じゃないだろ?  君はもっと、強引なくらいの方が好きだったはずだ」 半ば強引に抱きすくめられ、降り注ぐように蓮の香りが下りて来る。 「なぁ、あんな奴やめて、僕にしときなよ」 吐息混じりの声と共に耳に息を吹きかけるようにして囁かれた。腰に回された手がスルッと背中を撫で上げ、ゾワリと肌が粟立った。 「なっ、てめっ……、それは前に断っただろうが」 慌てて身体を引き剥がすと、拘束は思ったよりも簡単に解かれ蓮がさも残念と言った風に肩を竦める。 「なんだ、残念。ちょっと強引に押せば行けると思ったのに」 「テメェ、俺の事を何だと思ってんだ」 「んー、苛められるのが大好きな股の緩い男?」 「……喧嘩売ってんのか」 思わず睨みつけると、彼はクツクツと喉の奥で笑って見せた。その顔がまたムカつくほどに整っていて腹立たしい。 「まぁそう怒るなよ。大好きだろ、そう言う事」 否定はしない。今更取り繕ったって無駄だし、隠せるものでもない。だが、それを他人に指摘されるのは屈辱的だ。 理人の性格上、肯定する事は絶対に無いとわかっているはずなのに、敢えて口に出して言ってくるあたりが意地が悪い。 理人の反応を見て楽しんでいるのだろう。相変わらず、良い性格をしている。 「……此処でそう言う話はよせ」 理人は盛大にチッと舌打ちするとくるりと背を向ける。 これ以上ここに居たら、何を言われるかわかったもんじゃない。 「忠告はありがたく受け取っておく。だが、俺がお前を選ぶ未来はもうねぇよ。俺は……真剣にアイツが好きなんだ。もう他の奴とは寝ない」 「はぁ。取り付く島も無し、か……。ただの友達にもなれない?」 その言葉に理人の眉がピクリと動く。 今更、何を言っているのだろうか? あの日の事を忘れたわけじゃ無いはずだ。 「その飢えた獣みたいな目をやめろ。……そしたら、考えてやらなくもねぇけど……」 自分でも甘いな。とは思った。だが、何故か蓮に対してはっきりと関係を断ちきれないでいる。

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