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「久しぶり。この間以来、だな」
「……何しに来たんだ」
扉を開けて中に入ると、ソファーに座っていた男が立ち上がる。相変わらず綺麗に整えられた黒髪と、仕立ての良いスーツ。そして、自信に満ちた表情。
「そうツンケンするなよ。別に取って食おうなんて思って無いから」
「……」
「ハハッ、そんなに警戒されると結構傷つくんだが……」
「……何しに来たんだ」
同じ言葉を繰り返す理人に、蓮は小さく溜息を吐く。
「全く……相変らず無愛想な奴だな。ま、いい。お前、番号変えただろう? 何度電話しても繋がらないからわざわざ来てやったんだよ」
確かに、真紀の件があってからすぐに携帯を解約し新しいものへと番号を変えた。GPSで見張られていると思うと気持ちが悪くて仕方が無かったし、何より気分が悪い。
「……色々あったからな」
「ふーん、まぁ、そういう事にしといてやるよ」
含みのある言い方に、イラっとする。いちいち勘に触る男だ。
「それで? わざわざ俺に会いに来た理由はなんだ? 」
「そうだな……。やっぱり、お前の事が諦めきれないんだ。……どうしても一目見たくてここまで来ちまった。って、言ったらどうする?」
妖艶な雰囲気を纏わせながら微笑む姿は、同性であるはずの自分ですらドキリとする程の色香を放っている。だが、生憎とその手の冗談は理人にとって最も苦手なものの一つだ。
しかもコイツの場合は本気なのか、ふざけているだけなのか判断がつかない。
「それは迷惑だから止めろと言わなかったか?」
理人が眉を寄せてそう言うと、蓮は面白そうにクスリと笑う。
「フフ、冗談だ。実は先日……佐藤が僕の所に来たんだ」
「佐藤……真紀が? なんで、お前の所なんかに……」
嫌な名前に顔が強張る。何故、真紀は蓮に接触して来たのだろう?
「さぁ? 理人の連絡先を知らないか? って聞かれたけど、わからないとだけ答えておいたよ」
「……」
やはり、スマホを解約して正解だった。アイツの執念には恐怖すら感じる。
「アイツ、ヤバイ薬でもやってんじゃないのか? 何があったかは知らないけど、一言耳に入れておいた方がいいと思って」
「そう、か……」
「念のため、家も引っ越した方がいいんじゃないか? アイツはヤバイ。目付きがヤバかった。関わらない方がいい」
ほんの少し会話しただけの蓮がそう言うのだから、彼女の異常さは相当だろう。
コッチの警察に相談しようかとも思ったが、実害が無いと警察は動けないのだ。
念のために職場には事情を話し、出禁にして貰ってはいるが、暫くは瀬名の外回りの仕事も減らしてしまった方がいいだろう。
「わざわざすまない。近々引っ越しも検討するよ」
理人はそう言い残し、部屋を出て行こうとしたが、不意に腕を掴まれ引き留められた。
振り返ると、真剣な表情をした蓮の顔がすぐ近くにあり心臓が跳ね上がる。
整った鼻筋に切れ長の目、薄い唇。改めて見ると、本当に美形だと思う。
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