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それが何故なのかはわからない。あんな酷い捨て方をされて、その後の人間関係におけるトラウマの種になった男だ。
恨む気持ちだってある。
なのに、どうしてだろう? こうして目の前に居ると、心の奥底にある何かを揺り動かされるような気がしてならない。
この感情が何なのか、深く考えてはいけない気がして理人は思考を遮断するように瞼を閉じた。
「OK。わかった。手は出さないと約束する。だから、新しい番号教えろよ」
「……ほら。名刺だ」
名刺だけ半ば強引に蓮の胸ポケットに押し込んで、理人は踵を返し出口へと向かう。
扉に手を掛けた瞬間、目の前に現れた人の気配に驚いて思わず声を上げそうになった。
「……理人さん」
「なっ、てめ……っ立ち聞きか!? 趣味悪いだろっ!」
いつから聞いていたのか。手をドアノブに掛けたまま固まっていると、いきなり瀬名に強く抱きしめられた。
「お、おいっ此処、廊下っ」
「わかってます。……でも……少しだけ」
瀬名が切なげに呟く。こんな所、誰かに見られたらと心配になるが、それでも瀬名を突き放す事は出来なかった。
「もし何かあったら……って、心配で来てしまったんですが……どうやら取り越し苦労だったみたいですね」
「当たり前だ。誰がお前以外の奴と……!」
そこまで言ってハッと我に返る。
自分は今、とんでもない事を口走った気がする。恐る恐る瀬名の顔を窺うと、彼は嬉しそうに笑っていて、恥ずかしさに居た堪れなくなった。
「おぉ、熱いねぇ……。ラブラブじゃないか」
突然背後から降って沸いた蓮のからかうような言葉に理人はビクッと身体を震わせる。
蓮の視線を感じて振り返ると、彼はニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「初めまして。理人さんの元カレさん。いや、今は《《ただのお友達》》、でしたね。僕は瀬名です。よろしく」
「……あぁ、先ほどはどうも。案内感謝してますよ」
にこやかな表情とは裏腹に、2人から発せられる空気はピリついていた。
間に挟まれた理人にとっては堪ったものではない。
「っ、おい。んなとこでいがみ合うな。誰かに見られたらどうすんだ馬鹿ども」
慌てて割って入る理人に2人は渋々と言った様子で矛を収める。だが、お互いへの警戒心は緩むこと無く、暫くの間ギスギスとした雰囲気が漂っていた。
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