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近々引っ越しを考えている。
火照った身体をベッドに横たえてポツリと呟くと、横から溜息のようなものが聞こえてきた。
「真紀さんの件、ですか」
「あぁ。アイツ、蓮に接触して来たらしい。何故だかわからねぇが俺の連絡を知りたがってる」
「……」
「でも、勘違いするんじゃねぇぞ。元々いつかは引っ越そうと思ってたんだ。それが少し早まっただけだ。お前のせいじゃねぇから勘違いすんな」
チラリと視線だけ向ければ、瀬名は複雑な表情をしていた。きっとまた余計な事を考えてるんだろう。
「理人さん……」
「だから、違うって。此処は元々俺が一人で住む為に買ったマンションだからな。その……お前の好みとか希望とかもあるだろうし……」
「僕は理人さんさえ居てくれたら、例え築50年越え位のおんぼろアパートでも全然かまいませんよ」
「それは俺が嫌だ。絶対虫とか出るヤツだろそれ……」
「冗談ですよ。壁が薄すぎて理人さんのエッチな声が洩れちゃったら困るし。あぁ、でも……必死に声押し殺して我慢する理人さんも可愛いから案外いいかも?」
「っ、おまっ、そう言う事しか頭にないのか!?」
「やだなぁ。冗談ですって」
「……お前の冗談は冗談に聞こえねぇよ」
呆れて嘆息すると瀬名はクスクスと笑って手を握り締めてくる。
「じゃぁ、今度の休みは物件探しですね」
「そうだな……」
引き寄せられた腕を枕にして瀬名の顔を見ると、額に軽くキスをされた。そのまま抱きしめられて背中を優しく撫でられる。
「お前の匂い、落ち着く……」
「理人さん……?」
「なんか、安心するっていうか……。お前に抱かれてると、凄く幸せな気分になるんだ」
素直な思いを口にしたら瀬名が息を呑む気配がした。
「もしかして、誘ってます?」
「あ? ふざけんな馬鹿。んなわけねぇだろうが。性欲魔人がっ」
即座に否定して慌てて胸を押し返し距離を取ろうとするが、逆に強く抱き寄せられてしまった。
抗議の声を上げようと顔を上げると、至近距離で目が合い言葉を飲み込む。
真剣な眼差しに射抜かれて心臓がドキリと跳ねた。
「理人さんだけです。こんな風に思うのは……」
愛おし気に髪を掻き分け耳元へ口付けられる。鼓膜に直接響くような甘い囁きに身体が震えた。
瀬名の指先が頬に触れ顎へと滑り落ちる。そして僅かに開いた唇をなぞるように指先で触れたと思った次の瞬間には深く口付けられていた。
あぁ、駄目だ。また、始まってしまう……。
「眠いんじゃなかったのかよ……ばか瀬名」
ぼそりと呟き、苦笑しつつ彼の背中にそっと腕を回した。
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