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自分の役職に未練などは無いが、自分のせいで瀬名が巻き込まれて会社で居心地の悪い思いをさせるのだけは嫌だった。
瀬名には今のまま楽しく仕事を続けて欲しいし、出来ることなら働く彼の姿をこれからも側でずっと見ていたい。
「日曜……か。わかった。その間俺は家を空けることにするから、ゆっくりすれば良いんじゃないか? 俺がいない方が気兼ねないだろう?」
なるべく自然に、普段通りに振る舞えているはずだ。
そう思って瀬名を見ると、彼は複雑な表情でこちらをじっと見ていた。もしかして、何か勘付いているのだろうか?
嫌な汗が背中を伝う。
「そうですね……。まだ、理人さんの事姉さんに話していないから。ちょうどいい機会だし、ちらっと話はしてみます」
「あぁ。それがいいだろう」
瀬名の返答にほっと胸を撫で下ろし、理人は内心で安堵した。それと同時に、これから瀬名を裏切ることになるであろう未来を想像し罪悪感に押し潰されそうになる。
蓮とは早々に決着を付けなければいけない。たった一日。自分さえ我慢すれば全てが丸く収まるはずだ。
「理人さん、お疲れですか? そろそろ寝ちゃいましょうか」
「……そうだな」
寝室に移動しベッドに入ると、直ぐに瀬名に抱き寄せられる。優しく髪をすいてくれる指先が気持ちよくて、心がズキズキと痛んだ。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
いつものように挨拶を交わし、瀬名の体温を感じながら眠りにつく。
瀬名と過ごすこの空間が理人は好きだ。このまま時が止まればいいのにと何度も願った。
けれど、もうすぐ自分はまた瀬名を裏切り、傷付けてしまうのだと思うと胸の詰まる思いがする。
いっそのこと全てをぶちまけてしまおうか。ふと、そんな考えが頭を過ったが蓮の冷ややかな言葉が脳裏を掠め、結局実行に移すことは出来なかった。
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