201 / 228
16-3
「じゃぁ、行ってきます」
「あぁ」
日曜日の朝、玄関先で見送ると瀬名は寂しそうな顔で振り向いた。
「理人さん、やっぱり一緒に……」
「いいから。気にせず楽しんで来てくれ」
「でも……」
「大丈夫だから。な?」
心配そうな顔の瀬名の顔にそっと触れ、宥めるように頬を撫でると少しだけ笑顔を見せてくれた。
「わかりました。そうですよね、理人さんも今日は学生時代の友人と会うんでしょう? 気を遣わせてしまってすみません」
瀬名の言葉に顔が一瞬強張りそうになり、理人は無理に作ったぎこちない笑みを浮かべて「気にするな」と言った。
もっと気の利いた言葉があったんじゃないかと思ったが、咄嗟にそれしか思い浮かばなかった。
これから会うのは友人なんかじゃない。だがそれを悟られるわけにはいかなかった。
良心の呵責に耐えかねて何度も瀬名に相談しようかと思った。だが、今の蓮からは狂気のようなものを感じる。
約束を反故にした時、瀬名に危険が及ぶ可能性だって十分に考えられるのだ。
拒否権なんて最初から無かった。目を皿のようにして探したけれど、確実に蓮が黒幕であると言う証拠は結局見つけられなかった。
限りなくグレーに近い黒だとは思うが、証拠がなければ動こうにも動けない。
今はただ、蓮との待ち合わせ場所に向かうしかない。
瀬名を見送り、重い足取りで指定されたホテルへと車で向かう。外はどんよりとした曇り空。今にも雨が降り出しそうな天気だ。
暗澹たる気分で駐車場へと車を停め指定されたホテルの前に立つ。 聳え立つビルを前にして、理人は身をすくませた。
あと5分で、蓮に指定された時間になる。今すぐに入らなければ遅れてしまう。
それだけでも、蓮を怒らせるには充分だろう。
目だけを動かして、周囲を見る。蓮が隠れている気配はない。ホテルに入る自分を見て何処かで笑っていてくれたらいいのにと思った。
例えそれが侮蔑に満ちた嘲笑であったとしてもこれから起こる事よりは、はるかにマシだ。
ともだちにシェアしよう!