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そんな淡い期待はタイミングよく着信を告げたスマホのディスプレイによって打ち砕かれることになる。
部屋番号だけが表示された文字を見て、一瞬息が止まりそうになった。
緊張のあまり、身体が震えそうになる。言われたフロアまでエレベーターで向かい、鉛のような重い足取りで廊下を歩いた。
此処まで来ておいて、逃げる事は出来ない。覚悟を決めて震える指先でチャイムを鳴らすと、ドアが静かに開かれた。隙間から覗く蓮は愉悦に満ちた笑みをたたえていて、背筋がぞくりと粟立った。
中へ入るよう促され、無言の圧力に逆らえず後へ続く。
「遅かったね。来ないかと思ったよ」
「……時間ぴったりだろうが」
時計の針は10時ちょうどを指している。遅刻はしていない筈だ。
「それに、約束したからな……」
息苦しくて堪らない。本心では今すぐにここから逃げ出してしまいたい気分だった。 でも、それでは駄目だと精いっぱいの気力を振り絞って、何とか蓮と向き合う。
「何か飲む?」
備え付けの冷蔵庫から未開封のペットボトルを差し出されたが首を振って断った。
喉がからからに乾いている気もするが、とても飲む気にはなれない。
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