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16-5
「オッケー。じゃぁ、始めようか」
蓮の言葉にびくりと身体が震える。今更何をビビることがあるんだ。今まで何人もの男たちとこう言うことをして来たじゃないか。
「取敢えず、着ているものを脱いでもらおう」
「……ッ」
覚悟してきたつもりだった。だが、改めて言われると手が震える。舐めるような視線を感じて、逃げ出したい衝動に駆られた。
「どうした? 脱がないのか? それとも、脱がされたいのかな?」
「ち、違っ!」
正直、どっちも嫌だ。命令を聞かなくていい方法があるのなら、すぐにでもそうしているだろう。
だが、そんな方法はないのだ。 ここに来るまでに色々と考えてはみた。 だがどれも非現実的な物ばかりで、結局はこの現実を受け入れるしか道はなかったのだ。
だからここに来た。今からコイツの言いなりにならなければいけないのだと思うと、吐き気がする。
(……落ち着け。今日一日だけ、我慢すればいいだけだ……)
必死に自分に言い聞かせて、緩慢な動きでシャツのボタンを外していく。一つ、また一つと外れていく度に、心臓の鼓動が激しくなった。
「……本当に、一度寝たらもう関わらないんだろうな?」
「勿論。もう二度とこんな事はしない。約束する」
この男の言うことを全て信じ切ることは出来ない。だが、今はその言葉を信用する以外に道はない。
「あと、わかってると思うが、スマホとか動画の撮影は一切禁止だからな!」
「興が削がれることを言うなよ。僕が写真を使って脅すとでも思ってるのか? だとしたら心外だな……。そんなものを使わなくったって君を手に入れる方法くらいいくらでもあるのに……」
シャツのボタンを外し切ると同時に腕を掴まれベッドに押し倒された。前ははだけて胸元が露わになっており、ズボンも半分ほど下ろされている中途半端な格好のまま、蓮がつける香水の香りが降り注ぐように落ちて来て、その甘さに頭がくらりとする。
顔と顔が接近し、目が合って思わず顔を逸らしそうになった。だが蓮がそれを許してくれるはずもなく、顎を掴んで正面を向かされる。
「僕を見ろ……理人」
名前を呼ばれ、ドクンと心臓が大きく脈打つ。まるで呪いのように染み渡っていく感覚に、全身が粟立った。
蓮は相変わらず整った顔をしている。スッと通った鼻筋や顎はシャープで、男らしいと言うよりはむしろ繊細だ。それなのに、妙に男の匂いと言うか、色気のようなものが強くて目のやり場に困ってしまう。
こんな状況じゃなかったら、きっと見惚れていたかもしれない。 でも今は……瀬名の事が脳裏にちらつく。
蓮と関係を持ってしまった事がもし、瀬名にバレたら……。想像しただけで恐ろしくて仕方がない。
「上の空って感じだな……」
蓮の掌がゆっくりと理人の体のラインをなぞっていく、集中していないことに苛立ったのか、咎めるように胸の突起を摘ままれた。
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