81 / 94

第81話 罰を

「構わない。楓と一緒にいられるなら」 「だめだ。陽向、そんなのは! そんなのは僕が辛い」  黙っていた楓が陽向の胸倉を掴んで叫んだが、陽向はその彼の手を逆に掴んで笑った。 「俺だって辛いんだよ。永遠にあんたがこんなところに一人でいるって考える方が。それこそおちおちと生きていられない。自分で自分を終わらせてしまいたくなる。いや、多分そうしてしまう。だって俺はそれこそ永遠に後悔するからさ。あんたを一人で行かせたことを」 「僕は罪人だ。私怨に駆られて大勢殺した。これは罰なんだよ。でも陽向は違う。陽向は普通に生きるべきだ。普通に生きて、幸せに」  言葉の途中で声が途絶える。陽向は楓の手を掴んで低く言った。 「あんたが罪人なら俺だってそうだ。俺も殺した。あの子をこの手で。だから罰を受けるべきというなら俺もだと思う」  自分の中にずっと消えずに残り続ける赤い記憶。記憶の中の少女は今も笑って手を差し伸べてくる。そのたびに陽向はやめろ、と止めようとする。けれどその声は届かない。彼女は砕け散り、赤い雨が降り注ぐ。  陽向は悪くない、と祖母は言った。だが、陽向はずっと嫌悪している。彼女を殺してしまった自分を。自分の血を。力を。  けれど、その血を力を超えて楓は陽向に触れてくれた。大丈夫、と言ってくれた。それは彼が対応できる力を持っていたというただそれだけのことだったのかもしれない。けれど、彼は教えてくれたのだ。あの記憶ゆえに他者と触れ合うことができなくなっていた自分に人と触れ合うことの尊さを。愛する、ということの意味を。  罪への償い方は陽向にはわからない。だが、もしも今、彼が罰を受けると言うのなら、自分も受けるべきだと感じる。彼だけが罰を受け、自分が裁かれないなんてことはあっていいわけがない。  そこまで思って陽向は自分自身に吐き気を覚えた。ああ、本当に自分はどうしようもない、と。  あの子への申し訳なさを理由にしてしまうくらい、自分は目の前のこの人を離したくないと思ってしまっている。  なあ。聞こえているか?  陽向は自分が殺してしまった彼女に呼びかける。  もしも聞こえているなら、俺に苦痛をくれ。あんたを理由にしてしまうくらいに俺はこの人をほしいと思ってしまうような仕方のない人間なのだから。俺を罰してくれ。  陽向の訴えに楓はゆるゆると首を振るばかりでなにも言えない。その彼に陽向は告げた。

ともだちにシェアしよう!