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第80話 永久の苦痛

 詰め寄ると彼の顔が歪む。腕を捉えられたまま、彼は顔を背けて呻いた。 「怖いとか怖くないとかいう次元の話じゃない。僕は大勢を殺した。こんなことで償いができるなんて思わない。でももし僕がこうしなければ、また大勢が死んでしまう。僕のせいでまた人を死なせるわけにはいかない」 「でもあんたはここまでもずっと償ってきただろ。そうやって償って償って終わりはいつくるんだよ? しかも……今度は永遠なんだぞ? どこまで自分を殺し続ければ許されるんだよ!」 「君だって死ぬんだ! 僕がこうしなければ」  ふいに声が跳ね上がる。楓はぱっと顔を上げて陽向を睨んだ。 「なんでいつもわかってくれない? 僕は君に死んでほしくない。自分のせいで僕が死んだと思って泣いてほしくもない。僕はただ……君に幸せであってほしい。それが、僕の」  言葉の途中で耐え切れなくなったように彼がうなだれる。言い返そうと大きく息を吸った陽向の耳に橋を駆けてくる音が聞こえた。振り向くと警護の赤衣が追ってくるところだった。  その音に押され、陽向は彼の手首を掴み鳥籠の中へと駆けこんだ。  外から見た以上に濃い暗闇に怯みそうになる。だがその暗さが逆に陽向の中の迷いを払拭した。 「なあ、あんた! 俺も入ってもいいよな! 別に!」 「陽向?!」  驚いた顔で楓が名を呼んだが、それを無視し、陽向は鳥籠の入り口に佇んでいる時見に向かって叫んだ。 「俺も行く。こんな真っ暗闇に楓を一人で閉じ込めておけないから」 「本気?」  時見が駆け寄ってきた追っ手を制止するため、片手を振りながら言う。 「君さ、わかってる? 鳥籠は毒を吸い寄せるようにできている。楓は毒に耐性があるから多少苦しいかな、で済むかもしれないけど、君は違う。相当苦しいよ? しかも時間が巻き戻り続けるから、激痛を何度も味わうことになる。そのうえ、絶対に死ねない。ずっとずっと苦痛が続く。そんなの耐えられる?」 「鬼みたいだな、これ。鳥籠っていうか拷問器かよ」  吐き捨てた陽向に時見は顔をしかめたが、そうだね、と苦笑いしてみせた。 「まさに拷問器だ。それに君は耐えきれるのかって聞いているの。永遠だよ?」  もちろんそんなのごめんに決まっている。だが、彼女の語る苦痛はあれよりは絶対に苦しくない。  楓がこの世にいないと知らされたあのとき、そしてそれに続く二年間の孤独に比べたら絶対に。そう、言い切れる自信がある。

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