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第83話 君の力は

「どういう、ことだよ」  驚いて彼女の方に向き直った陽向に、時見はにやりと笑ってみせた。 「固形燃料ってあるじゃない。火の中に入れると火力が増すやつ。君たちの力はそれに近い。  炎はさ、触れ合うことで黒鳥に力を与えられるんだよ。燃料を足せば足すほど火が大きくなるのと同じように触れ合えば触れ合うほど使える力も大きくなるってわけ。  ただ、人の体ってのはさ、容量があるからね。かまど級の炎をアルコールランプで再現しようとするとランプが壊れる。それと同じで、体の限界を超えて力を使おうとすると体が壊れる。結果、短命になる。それが命が削られると言われた理由。つまり、力さえ使わなければ命は削れないんだよ」  あまりのことに顔を見合わせた陽向と楓に、さらにもう一つ、と言って彼女は指を立ててみせた。 「触れた生物を壊しちゃうって能力もね、ただの殺人スキルじゃない。  炎はもともと他者に力を分け与えられる一族ってだけなの。ただ、その力が大きすぎるのが難点なだけ。黒鳥のように受け入れる力がある種族なら問題はないんだよ。でも力がない人間にはその力は大きすぎる。結果、受け止めきれなくて受け手を殺してしまう。小さすぎる風船に急激に空気を入れるとすぐ大きくなって破裂しちゃうでしょう。それと同じ」  時見は栗色の目を眇めて陽向と楓を見比べ、ふっと声を低めた。 「君たち炎を地底に下がらせるよう四百年前に黒鳥に命じたのは私たち時見。炎、黒鳥どちらの力も大災厄から守り保全すべきと考えてね。すべては、今、このとき、炎の力が黒鳥に作用してこの地下汚染を食い止める助けになると判断したから。思ったより黒鳥がいなかったのは誤算だったけれど、まあ、今さら四百年前からやり直すのも困難だからね。  けれどその私たちの判断が、君たち二つの種族に消えない確執を植え付けてしまったことは謝るよ。時見の性質上、表に出るわけにはいかないとはいえ、もっと配慮してもよかった。ごめん」 「あんたって、本当になに……?」  神、とされている時見。しかし彼女の言動は語る内容はともかく、あまりにも人間的過ぎる。  時見は薄い唇をにっと引いて笑ってから、さて、と手を叩いた。

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