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第84話 支えて生きていく

「じゃあ、続けようか。こうしている間にも浸食は進んでいる。それは非常にまずいからね」 「ちょっと待ってください!」  声がかかり、扉から如月が顔を出した。 「陽向くん! 君は本当にいいのか? もう、戻れないのに。ばば様になんて……」 「如月さん」  陽向は笑って如月を見つめた。ほんの幼いころから陽向にさまざまなことを教えてくれた人を。 「申し訳ないですが、ばば様に伝えてくれますか。いろいろ心配かけてごめんって。だけど俺はもう大丈夫だからって。もうちゃんと、人と関われる人間になれたからって」  思えば祖母には迷惑ばかりかけてしまった。あの少女を殺してしまってから、人を遠ざけ、祖母とも一本線を引いて接してしまっていた。本当なら祖母の傍でその償いをするべきなのだろうけれど、自分はもうそれができない。けれどその代わり、できることもある。 「ばば様が長生きできる世界を作ってくれる人を、俺は支えて生きていくからって」  如月の顔が固まる。彼は苦しげに唇を引き結ぶと、細かく何度か頷いた。その彼に陽向は精一杯の感謝を込めて頭を下げた。 「如月さん、本当にありがとうございました」  如月はその陽向を見つめ、なにも言わず、ただ大きく二度頷いて扉から退いた。背中を向けた彼の肩は震えていた。

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