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第85話 守って

「さてと。じゃあ、扉を閉めるよ。いい?」  時見が声をかけてくる。陽向は隣に立つ楓の手を握りしめた。絡めた指に力を入れると同じ力が陽向の手にも返ってきた。  時見がそんな二人を眺め、くすりと笑った。 「どれだけ時が進んでも消えないでほしいね。愛ってのはさ」  あまりにもあけすけに言われ、陽向と楓がそろって赤くなると、彼女はおかしそうに肩を揺らしてから、何気ない調子で付け加えた。 「君たちが私の時代も守ってくれると、信じているからね」  聞き返す間もなく、扉が閉ざされていく。差し込んでいた明かりが徐々に細くなり、暗闇にすげ替わっていく。  完全に扉が閉じたところで陽向は首を傾げた。 「時代って……どういうことだろ。なんかあの言い方だとさ」 「未来から来た人、みたいだね」  ぽつんと楓が隣で呟くが、完全に扉が閉められると真っ暗で隣にいてさえ顔が見えない。はがゆい思いをしながら身じろぎしていて、ふと思い出した。  胸元を探るとそれは少ししおれていたけれど、ほのかに光った。  花弁が一枚千切れひらり、と舞った。

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